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□血盟聖夜・アタニンの場合(兄忍)
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「……あの、アタル殿……」


「アタルではない、サンタクロースだ」

「…ではサンタクロース殿…」

「何だ」


まだドキドキと速い鼓動を刻む心臓を手で押さえ、ニンジャは呆然とした眼差しで目前の其れを見た。

もう宵も随分と回った時刻、当然のように自室で床に就いていたニンジャは、ふと寝返りを打った刹那、その異変に気付いた。

何故か、いつのまにか傍らにアタルが寝そべっているのだ。
疑いようもない、彼のものであるマスクは標準装備のまま、頭に面妖な赤い帽子を被っている。
そして、口を開くでも身動きを取るでもなく、ただじっと、ニンジャを見つめていた。

宵の暗闇に浮かぶ、ギラリと光る力強い双眸が、静かに此方を見据えている――
その恐怖は、語るに及ばない。

一瞬で額から冷や汗が吹き出し、叫ぶ声すら上げられないほど驚愕したニンジャは、驚きのあまり泣き出してしまった子供を安堵させるように、爆発しそうな心臓を激しく摩る。

そして、状況は掴めないながらも何とか冷静さを取り戻し、今に至るところだ。


「何だではないでござる…拙者の布団の中で何をしているのだ…いや、何をしに来た…」

「この格好を見れば分かるだろう」

「分からぬでござるよ」

恐る恐る布団を捲ってみると、何とか衣服は身に付けていたが、いつものものではなく、上下揃いの別珍で出来た真っ赤な衣装であった。

「サンタクロースだ、と言っただろう」

まぁ、今日という日付と全身を赤で包んだ怪しげなコスチュームを考えれば、彼が何を思って行動に出たかは想像に容易い。
しかし、

「拙者の知っているサンタクロースは勝手に布団の中に入ってきたりしないでござる」

問題はそこだった。

ふとアタルから視線を外して周囲を見回してみたが、従来のサンタが担いでいるプレゼント入れの白い袋などは見当たらない。
だとすれば、本当に何をしにきたというのか。

「何、そうなのか?だが私が読んだ文献には、祭りの夜、男達は女の床に忍び込み…」

「それはクリスマスとは違うでござるよ!!だいたいそんな風習も今は無くなってるでござる!」

どうやら、アタルの覚えたクリスマスは、どこかで日本の夜這い習慣とすり変わっていたようだ。
相当真剣な調子で見当違いな返答を出したアタルが本気なのか確信犯なのか計りかね、ニンジャは悩ましげに額に手を遣る。
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