世界征服計画!?

□始動
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 ある男が今まさに死を迎えようとしていた。男の顔に刻まれた何本もの深い皺が男がどれほど長い年月を生きてきたかを物語っていた。
 男が横になっている布団の周りに5人の女性が座っていた。それぞれがスーツを着て正座をしている。全員の顔に隠しきれない悲しみが浮かんでいる。
「無明様、お加減はいかがですか?」
 黒いシャツに赤いネクタイの女性が労るように老人に声をかける。心配そうに自らを見ている女性たちに対して無明と呼ばれた老人はまるで我が子を安心させようとする父親のように優しい笑顔を見せた。
「だいぶ、いい。すまんが、何か飲み物を」
 起き上がった無明に豪奢な縦ロールの髪型をした女性が急須から湯のみに茶を注ぎ手渡した。
 無明はゆっくりと湯のみに口をつけ、熱い茶を少しずつ飲んでいく。ある程度飲んだところでまだ茶が残っていたが無明は湯のみを返した。また、長い沈黙が訪れる。聞こえてくるのはそれぞれの息づかいだけだ。
 突然無明が閉じていた目を見開いた。
「時は来た」
 その言葉に5人は思わず前に乗り出した。
「皆、世話になった。儂は本当に良い部下たちを持ったものだ」
「無明様っ!」
「うろたえるでない。儂とて人間、来るべき時が来ただけのことよ」
 無明の顔はひどく穏やかでこれまでのことを思い出すかのように懐かしさがにじみ出ていた。
「さて、儂の後継者の事だが。儂には一応孫がいる。その子ももう高校生になったはずだ。一度、その子に会ってみてくれ。それでお前たちがその器なしと判断すれば、お前たちの中の誰かが継ぐか他の者に任せればいい。まあ、こんなものか」
 言うべきことを言い終えた安心からか、無明の身体から力が一気に抜けた。そして呼吸が徐々に遅くなってくる。
「ではな。お前たち。儂はなかなかに楽しかったぞ」
「無明様!!」
 この日、一部の人間たちに畏敬、敵対、軽蔑、信頼。様々な目で見られていた1人の男が逝った。





 中谷 良平(なかや りょうへい)は必死に自らの中に潜む睡魔と戦っていた。
 時刻はすでに夜中の2時45分。形勢は睡魔の方が圧倒的に優勢だった。だが良平もそれに負けじと顔を叩いたり頬をつねってみたりコーラを一気飲みしてみたり。最後のはなかなか効果があったがそれでも良平の眠気は払えなかった。
 彼がそこまでしてこんな時間まで起きているのには至極簡単な理由がある。明日が高校生活初の定期テストなのだ。
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