slapstick paradise

□約束
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ガサッ
「来たか。」
「大丈夫ですか?」
煌がくわえていた煙草を地面に落とし、靴の底で踏み消す。
「わからん。アイツとの闘いは能力は使わないって約束だし。しかもアイツは戦う度強くなってるからな。もしかしたらもしかするかもしれん。」
物音のした林からスーツを着崩し、気だるそうな顔に無精ひげをはやした青年が現れた。
それなりに整った顔をしているのだが、無精ひげと眠そうな目がその顔を台無しにしていた。
「待っててくれたんすかぁ。」
「ああ。約束、だからな。」
「そいつはどうも。でも今回はいつもどうりというわけにはいかないんすよ。」
「どういうことですか?」
それまで黙っていた鬼山が口をひらく。
「実はここに来る前にある人から依頼を受けたんすよ。こっちも生活かかってるんで。」
頭をかきなが申し訳なさそうに告げる。
「依頼って、どんな?」
煌が問う。
「あんたを、殺せっていう内容です。」
次の瞬間、鬼山の姿が一瞬消え、青年の背後へと移動していた。
「止めろ鬼山。真剣勝負だ。手出しなんて野暮なまねはするな。」
「でも、」
「信じろ。私を。」
その言葉は信じられない程、穏やかで優しいものだった。
「じゃあ始めるか。」
煌の顔が真剣さを帯びた。
「そうっすね。」
青年が真上に手をかざす。
すると、その手の中に一本の槍が現れた。
「久しぶりだ。その槍を見るのは。」
「手加減なしっす。」
しかし槍を出し、構えたまま、青年は一歩も動こうとしなかった。
「出さないんすか?」
青年が意外そうに問う。
「何を?」
煌が問い返す。
「能力っす。俺ちゃんと言いましたよね?手加減なしって。」
「ああ。言ったな。それでも、私は能力を使う気は無い。」
「あん時の、約束っすか?」
「ああ。」
「今回に限って、あの約束は成立しません。お互い、命懸けっすから。」
「くだらん意地と思えばいい。さあ、生憎私も暇じゃない。やるならさっさとやろう。」
「…わかりました。」
青年が槍を構え直し、煌にその切っ先を向けた。








午前7時05分
slapstick事務所
「遅いですね。社長達。」
特にやることがなく応接室のソファーに寝転び、雑誌を読んでいた蘭丸がなんとなしに皐に聞いた。
「そういえばそうですね。いつもは1時間ぐらいで帰ってくるんですけど。」
皐の声は甘い匂いと共にキッチンから聞こえてきた。
「何してるんですか?」
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