Dream

□ひとときの幸せ
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「キヤッ! キヤッ!」
幼い子どもの声。
「待てっ!京華危ないっ!」
後ろからの声を気にせず走っていると何かにつまずきこける。
泣くのを我慢しているのだがさすがに擦りむいたのは痛かった。
「うっ うっ うぇ うわ〜ん」痛さに負けてしまいついに泣き出してしまう。
すぐに後ろを走っていた男が追いつく。
「走るなと言ったのに」と呆れながら言ってくるが怒ってはいない。「ほら大丈夫。母さんのとこまでもうすぐだ」と言って手を掴んで立ち上がらせてくれた。「お兄ちゃん…ふぇ ヒック ヒック…」しゃくりあげながら自分の前に立つ大きな兄の姿を見る。
安心したのかまた涙が出てきた。

「ほら乗れ」兄は私に背を向けしゃがむ。     私はその兄の広い背に飛び付く。
すると、めったに笑わない兄の顔から珍しく笑みがこぼれる。
「よし行くぞ」そう言って兄は母、琴音が住む家へ続く坂を、今度は私をおんぶして再び登り始める。


多分それが兄が笑った中で私に一番記憶に残った兄の笑顔だったと思う。

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