短編
□音のない彼女
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名前はある日9代目のジジイが連れてきた。
俺らと同じ穴のむじなでもなさそうだし普通の一般人にしか見えない。
なのに暗殺部隊で面倒みるなんて馬鹿げてる。子守じゃねーつの。
「は?なんで王子があんな女の面倒見なきゃいけないわけ?」
「ぺーぺーは文句言わねぇで黙ってやれぇ!!」
「やだねぺーぺーじゃねーし。しし♪間違って殺っちゃうかも」
その時、ノック音と共に名前が入ってきた。
やば、今の聞かれた?
俺の心配をよそに名前は丁寧にお辞儀をし微笑む。どうやら今のは聞かれてなかったらしい。
まぁ、聞かれたところでどうでも良いけど。
そんなことを思っているとボスが口を開いた。
「ベル」
「えー、マーモンで良いじゃん」
女ってめんどくさくて嫌いなんだよね
「生憎、僕は仕事で手一杯なんだ。金にならない面倒事は押しつけないでくれよ。」
「ベル…やれ。」
「……Si、ボス」
ボスを怒らせるのは不味い。俺は渋々了承した。
名前を通りすぎ振り返る。
「…おい、さっさとついてこいよ」
「……」
俺の呼び掛けに対して何の反応も見せずただ前を見てにこにこと笑っているだけ。
この女…王子無視とか良い度胸してんじゃん?
荒々しく名前の手首を掴んで無理矢理連れ出す。用意されていた部屋の前まで連れてくると壁に押し付けナイフをちらつかせる。
…何コイツ、この状況でまだヘラヘラ笑って…苛々する。
「しし、お前マジむかつく。ヘラヘラ笑って何が可笑しいんだよ?」
名前は俺がそういうとキョトンとしたあと困ったように笑った。一瞬の罪悪感はきっと気のせい。
「…お前、馬鹿なわけ?…もういいし」
名前と居ると調子狂う。
コイツは、名前は
何を考えてる?何を思ってる?
「…なんで笑ってられんだよ?!」
怒鳴ってからはっとする。なんで俺、こんなムキになってんだ…っ。焦りを悟られまいと表情を崩さず名前を見ると口をパクパク動かして何かを言ってる。
「…もしかして、お前」
喋れないわけ?
聞いてもうなずく様子がない。…どっちだよ。
今度は鞄からノートを出して何かを書いてる。
書き終わったのかノートとペンを突き出され俺は目を見開いた。
[私は生まれ付き、耳が聞こえません。なので言葉を話せません]
そこには小さな可愛らしい丸い字で確かにそう書いてあった。
耳が聞こえない…?
俺の声が届いてなかった?
じゃあ、あの時もさっきのも無視してたんじゃなく何を言っているのか理解出来てなかった…?
喋らないんじゃなく、音を知らないから喋れないんだ。
俺…
「…知らなくて、ごめん」
気付いた時には口から謝罪の言葉が出ていた。自分自身でもびっくりしてる。
そんな俺を心配そうに見つめてくる名前。
「あ、そっか」
言葉じゃ駄目なんだ。文字じゃなきゃ駄目なんだった。
[俺はベルフェゴール、ベルで良い。お前の世話係だからなんでも聞けよ?]
ノートを渡すと名前はこれ以上ないくらいに笑った。つられて俺まで笑ってしまった。
「 」
胸が高鳴るのはきっと気のせい。
まだ、俺は子供だから認めたくないんだ。
話したいのに返事がなくて苛々してたこと
あまりにも綺麗に笑うから素直になれなかったこと
そしてなにより
お前みたいな一般人に王子が一目惚れしたこと
「…っぜってぇ認めねー」
赤く染まっているであろう頬を見られまいと名前を抱き締めた。
〜音のない彼女〜
(ありがとうなんて)(初めて言われた。)