さよならメモリーズ

□最終話
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総悟と出会った1年前。

それからの毎日はとても楽しくって、

だけど同じくらいに辛かったんだ。








『……久し、ぶり』

「そうだな」



すこしだけ離れた位置から近づいて、昔と同じ距離。
前は、これが普通だったのにな。

久しぶりに見る総悟の顔は、たった1ヶ月会ってないだけなのに何故か懐かしくて、すこし大人びた気がする。
いや、やっぱり変わってないかも。よくわかんないや。



『どうしてここに…?』

「いや、散歩がてら花見でもしようかと思ってねィ」

『そっかぁ…』

「相澤は?」

『私…は、』



総悟のこと考えながら散歩してたらなんとなく通学路に着いてしまった、なんて言えるはずもなく。



『私も、そんなとこ』

「今満開だからな」



枝いっぱいに咲き誇る桜を見上げて総悟が言った。
つられて見上げれば文字通り満開で、また、重ねて見てしまった。



「…あ、そーいや姉上に買い物頼まれてんでィ」

『そう、なんだ…ごめんね、引き留めちゃって』

「いや、久しぶりに相澤の顔見れて良かったぜィ」



ばくん。
それを皮切りにどんどん高鳴る鼓動。
やっぱり、まだ、総悟が…



「じゃあな」



それは紛れもなくお別れの合図だった。



『またね』



自然と口から出た言葉。
私は何を言ってるんだろう。

またね、って…
次いつ会えるかもわからないのに?



『、さよなら』

「おう」



あの日と変わらない横顔で告げられる。
総悟がゆっくりと歩き出す。


待って。
まだ、言いたいことがあるの。
いっぱい話したいこと、伝えたいこと、あるのに何にも言えてない。

また会えなくなる、そう思うだけでこんなにも不安になるのに。
1ヶ月会えなかっただけでも寂しかったのに。
これから先、私は耐えられるの?
違う誰かを好きになれる自信があるの?

……きっと、違う。

答えはもうとっくに決まっていた。


お別れするのは、
本当にさよならしなきゃいけないのは、



想いを伝える勇気がなかった、自分だ。





『っ…総悟!!』



出せる限りの声を上げて呼び止めた。
少しだけ驚いたような顔をした総悟が振り返って私を見つめてる。
どきどきして、心臓が破裂しそう。

でも、今言わなきゃいけないんだ。





『あの…っごめんね…!!』



それは引き留めてしまったことへの謝罪なのか、想いを伝えきれなかったことへの懺悔なのか、自分でもよくわからない。



『上手く、言えないけど…』



気持ちを言葉にすることがこんなにもどかしいものだったなんて、知らなかった。



『…だから、私、えっと…』



だけど、



『総悟と…っ、なんていうか……』



どんなに怖くても



『いっ今のまま…、さよならしたくないの…っ!』



もう元の関係に戻れなくても



『初めて総悟が、名前で呼んでくれたとき…っすごく、すごく嬉しかった!』



この想いだけは、本当だから



『だからっ……、友達のままじゃ…もう、嫌なの……っ』



いつの間にかぼろぼろ涙を溢していて、まともに総悟の顔が見えない。
悲しいことじゃないのに苦しくて、切なくて。

ねぇ、こんな気持ちも全部、総悟が教えてくれたんだよ。


あの日から、言おうと思ってた――



『私っ…総悟の…!』



涙で顔がくしゃくしゃになっても、
嗚咽混じりで上手く声が出なくても、
言わなきゃいけない。



『総悟のこと…っ』







――ふわり。

暖かい春の匂いが頬を掠めた。
私はこの香りを知ってる。

視界の端に見えるのは、桜吹雪によく映える、何度も憧れたあの亜麻色――


心臓の音が伝わって心地好い苦しさに襲われる。
たぶん私も同じ鼓動を刻んでいるだろう。
ぎゅう、と背中に手を回して拳を固く握りしめる。
離さないように、離れないように。





『…ずっと、ずっと…前から――』










好きでした


(ああ やっと言えた)






end*

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