桐青

□夏の日のあなた
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朝から身体がなんとなくダルかった。今の時期練習量は半端なく、照り付ける陽に体力を奪われる。
まあ、疲れが溜まってきたんだろうと思って気合いを入れ直して練習に臨んだ。
それがいけなかった。午後練が始まってすぐ、くらくら目眩がして…気付けば保健室のベッドだった。

そういえば頭痛がする。
この感覚は…
ああ、夏風邪なんて情けない。


レギュラーをとれて油断してしまったのだろうか。
選ばれた事が当たり前だなんて思っていない。いつ落とされるか分からない。
3年生だってたくさんいる中で俺は4番を任されたんだ。油断なんてしていられる理由がない。



「ターケ」
「山さん」
「大丈夫か〜」
「…なに笑ってんすか」
「タケが倒れるなんて珍しいから」

心配しちゃった、と山さんが眉を下げて笑った。
陽を浴びたせいかなんなのか頬骨あたりが色付いて見える。


キレイだ、と思う。
自分と同じ男なのに、だ。



ギィとベッドが軋む音。
少し引き締まった山さんの顔が近付く。

少し荒れた唇とその間に覗く濡れた赤色に目を奪われ、吸いつきたい衝動を抑えるのにゴクっと喉を鳴らした。


「キス、しちゃおうか」
「…ダメです」
「イヤなんか」
「イヤじゃな…

言い終わる前に唇を塞がれた。ふわっと自分と違う汗の匂い。

ダメだって、感染したら本当に冗談じゃ済まないって、分かってる…けど。

誘ってくる舌を拒めなかった。
山さんの項を押さえ自分からも絡ませる。
荒くて甘い息と水音が耳を犯す。



「や…まさん…?」

唇を離し山さんを見ると目に涙を溜めて一筋、滴が頬を伝って顎まで落ちた。

「そんなに、苦しかったですか」
「…タケのばーか」


心配させんな、と俺の胸に顔を埋める山さんが可愛く思えて。すいません、とその頭を包み込む。



確かに、もし山さんが練習中に倒れたら。生きた気がしない。
よくスポーツ選手が試合中にいきなり倒れてそのまま死亡するという話をニュースで見る。
そう山さんの倒れた姿を考えただけで冷や汗と動悸がした。


あんたもそんな風に思ってくれるだろうか。


腕の力を強めると「苦しい」と顔を上げ頬を膨らませた。
そしてまた触れるだけの、キスをする。

「プレゼントは俺だったのに〜」
「プレゼント?」
「タケ、誕生日っしょ」
「……」
「忘れてたんか」


そういえば…
ケラケラ笑って「おめでとう、タケ」とキスをくれた。
頬を紅く染めてなんとなく照れたように笑って。

柄にもなく愛しいな、なんて思った。





「プレゼントは…時間をかけて頂きます」




⇒おまけ


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