桐青
□仲秋の名月
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『仲秋の名月』
「あ!今日あたり満月かな?」
「おー、かもな」
「キレイ…すごい明るいね」
「…だな」
まるで月の引力とやらに全てが吸い込まれそうな、そんな気のする今日の月。
月の周りは雲がしっかり形を見せるくらい眩しくて、こんなちっぽけな人間なんて光の中に溶けて無くなりそうだ。
まあ、月に飲まれるなんてないんだけど
「準さん…?」
「っわり、なに?」
「ん〜ん。準さんが好きだよって話」
「なんだよソレ」
ちらっと横目で見た利央がいつもと違って見えたのは気のせいだろうか。
利央の部屋に行きいつも通りベッドを陣取って漫画に没頭していると、利央が半身寄越して身体中にキスを落としてきた。
頬、頭、肩、腕、背中から足へ。
それはもう至るところに。
終わると俺に跨り、また足から同じようにキスを落としながら頭まで来た。
後ろから抱き締める形で肩から顔を覗かせる利央に、ご褒美といわんばかりにキスしてやったらしっぽをぶんぶん振ってるのが見えた。
やっぱ犬だこいつ。
駄犬ときどき忠犬ってか
ぷっ…
「なあに〜準さん」
「いや、お前本当犬だなって」
「犬は犬でも…狼かもよ?」
そう言った利央の声が酷く乾いて囁かれて笑いが一気に引いた。
反論はおろか利央の顔を見ることも許されない気がして。
「ねぇ、狼でも飼ってくれる?」
「っ…」
「狼はねぇ…周りの危険を人間に知らせて守る代わりに、ご飯とかご褒美もらってたんだよ」
首筋に舌を這わせた後、かぷりと噛み付いてきた。
いつもよりぐっと刺さる感覚が襲う。
「オレ、準さん守るから。ご褒美、ちょうだいよ?」
ぐいっと仰向けにされ、利央が電気を消してまた覆いかぶさってきた。
いつもより青白く光る月明かりに、利央の不思議な色の目も青白く光った。
「ああ…」
「オレいつもおなかすいてるんだからね」
「ん…」
いつも表情と比例して見えるしっぽも今は、ぐっと上にあげて耳もピンと立ってるように見えた。
まるで獲物を見るような目。
人と犬が本気で力を出せばどちらが勝者かなんて決まってる。
まして狼なら。
「いいよ。喰えよ」
俺に勝ち目はないんだ。
悪戯な月に照らされた
いつもと違う利央の目に
飲み込まれそうになった
2009.9.12