桐青

□アンサンブル
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「本やーん、ジュース買いに行かね?」
「おう!行く行く」


廊下を並んで歩く。
右を見ると少しだけ低い位置に黒い髪をなびかせて、目と口を一本線にしてご機嫌な表情。
ここは俺の定位置。
他の男でも、女でもなく。俺の。



「あ、もうホット出てんね」
「本当だ。俺ブレンドコーヒー」
「うーん…俺ミルクティーでいいや」

買った紙パックにストローをさして来た道を戻る。
休み時間も残り僅かな廊下は何人か走り去って誰もいなくなった。

「山ちゃん、屋上行っちゃう?」
「珍しいわ、本やんからのお誘いなんて」
「たまにはいいじゃないか、なあ圭輔」
「そうね裕史」

笑いながら手を取り合って屋上に続く階段を走った。
息を切らして屋上に着くと少ししかない影に隠れて座った。
授業が始まり、しんとした空気にずずっとコーヒーをすする音が溶ける。

「…それ苦い?」
「んー少し苦いけど…甘みもあるから山ちゃんでも飲めると思うよ。飲んでみる?」

そう言ってコーヒーを口に含んだ。
俺の手の中の紙パックを見てる山ちゃんの顎を上げて、半開きの口に自分のそれを合わせ含んだものを流し込む。
いきなりのことに引きかけた顎を先ほどより強く上げて口の端から漏れる茶色を拭った。

「っ…ぅ…」

咄嗟にごくりと飲み込む音を聞いて目をうっすら開けると、眉根を寄せて苦しそうな顔があった。


やべ…

これ以上この顔を見てるとけしからんことをしたい衝動に駆られるので、与えられた液体を零さないように閉じた唇をちゅっと吸って離した。

「っあぁ…ニガ…。てかいきなりすんなよー」
「ごめんごめん」
「…んー飲めなくはないけど、後味がいかにもコーヒー!て感じでやだ」
「なんだそれ」

まだ眉根を寄せたまま、手の甲で口を拭う。そうやって照れを隠そうとするところがかわいい。


「山ちゃん、俺もそれ飲みたい」
「…ほい」
「……飲ましてよー」
「………」

ダメ元で言ってみると山ちゃんは苦い顔をしながらミルクティーを口に含んだ。
膝立ちになって俺の方を向き顔に両手を添えて唇を合わせた。

え…まじ?

少し隙間を作るとそこからトロトロと温かいものが流れてきた。この感覚、本当にやばい。
うまく入りきらなかった液体は顎から喉を伝って流れる。

コクコクと飲み干し、離れたくないなと思って項に手を伸ばすけど、山ちゃんは離れなかった。
お互いの舌を絡めて味を吸い取る。


苦味と甘味の調和…
まるで俺達のような



これ以上は本当に抑えがきかなくなりそうだったから唇を離して山ちゃんを抱き締めた。


「お味は?」
「最高っす」


喉を伝ったミルクティーを舐めとられ、背中をぞくぞくとした感覚が走る。

「本やん耳真っ赤〜」


ケラケラ笑う山ちゃんこそ、真っ赤じゃん。



少し気温の低い青と白の空と
上気した俺達の赤い耳は

いいアンサンブルだろう




2009.9.27



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