桐青

□ヒガンバナ
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昼休み、急遽部活がなくなった旨の連絡を受け、直後なぜか山さん宛てのメールを開く。

『今日部活なくなりました』

一言だけ添えて送信完了を確認し携帯を閉じる。
なにを報告してるんだ、と思いながらも返信に期待してしまう自分がいることにも気付く。
それを振り払うように部員に部活の中止を連絡した。


5限、6限と時間は過ぎていったが山さんからの連絡はなかった。

まだ3年生が引退する前は、山さんがよく帰りを誘ってくれた。自販機に寄ってジュースを奢ってもらったり奢ったりしたものだ。

山さんは決まって甘いものを飲んでいた。
寒いときはホットのココアやミルクティー、暑くなればイチゴオレや飲むヨーグルト。
あまり甘いものを飲まない俺に、糖分も摂らないと、と山さんは甘い顔で笑っていた。



少し長引いているHR中にもう一度携帯を確認するが、見慣れた待ち受け画面があるだけだった。
なんとなく湧き出る苛立ちを長引くそれのせいにして携帯をポケットにしまった。

やっとのことでHRも終わり、今日仕事を果たせなかったエナメルのバッグを背負い教室を出た。


「山さん……なにしてんスか」

「ひで〜。タケ待ってたんじゃん」

「…そっすか」

「嬉しくねえの」

「いや、…嬉しい…ス」

帰ろ、と笑いかけてくれるあんたに、俺はいつも助けられる。



2人並んで歩く。夕陽に照らされたつやのある黒髪はオレンジに染まっていた。


「部活どう?」

「大変、すね」

「はは。簡潔でよろしい」


今までは他愛ない話を延々としていた。ほとんどが野球に関わる話。
でも山さんが引退してからそれも減った。

少しの沈黙が2人の間の空気を揺らす。
するといきなり山さんが道端にしゃがみ込んだ。


「俺さー、子供は一姫二太郎がいいんだよね」

「……はあ」

「だから一人目は女の子ね」

またなにを言ってるんだと思ったが、本気とも冗談ともつかない顔で言う山さんに曖昧な返事をすることしかできない。


「男の子はタケ似がいいな〜」

へらっと
俺の目を見つめてくる。

「俺、すか…」

「うん。女の子でタケ似はかわいそうだろ?」


くすりと笑う山さんの隣にしゃがみ込む。
こういう時、あんたはなんて言って欲しいんだろうか。俺になにを期待してるんだろうか。

俺たちは確認するまでもなく男同士で。
子を授かることはできない。
そんな判りきったことを裏切って話すあんたは、今俺になにを求めてる?


「山さん…」

「名前とか考えんの、楽しそうだよな〜」



優しい顔で一点を見つめたまま今度はこっちを見なかった。
目線の先のくすんだ紅い彼岸花が一輪、山さんと重なって見えた。




2009.10.9




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