桐青
□テイクアップ!
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「山ちゃんとならキスできるわ俺」
「…はい?」
今日ベントーなんだ俺、なノリで言ってのけた目の前の長身に、訝しげに顔を向けると、ん、なに?という顔をされた。
なにじゃないよこっちがなにだよ。
「彼女ができないからってついに男にまで手を出したか…!」
「いやいや男にとか興味ねーし。あでも山ちゃん男か」
「今更気付いたんか」
只管あーだこーだと真顔で考える姿がなんとも滑稽で笑っていると。
「で、どうスか」
どこかあしらえないような眼差しと声に、一瞬、身体が強張ったような気がした。
まるでスローモーションのように。
本山の腕が腰に回り引き寄せられ、今まで気にしていなかった身長差や自分とは質の違う体格差をまじまじと感じた。
そして身を翻す間もなく、唇が触れた。
現実味を帯びない数秒間が数十秒、数分間にも感じられた。
「ばっ……かじゃねえの!」
焦って突き放して相手を睨むけど、それはすぐに負けを知る。
「心臓、めっちゃばくばくいってる…」
照れくさそうに、でもどこか嬉しそうにはにかむ目の前の顔に、本人に負けじと速い鼓動はさらに掻き立てられた。
気持ち悪いだとか。それどころか嫌だなんて微塵も思わなかった。
だってほら。
口を覆った手の甲は…
覆ったまま、唇を拭ってない。
ただ広がるのは先程の唇の感触と、今までと変わってしまった違和感。
きっともう一度と求められれば、また。
「山ちゃん、もっかい…」
「………」
受け入れる。
これが友情の延長か、好きだの恋だのいうやつか。そんなことわからない。
ただ、
これ以上のことを求められても、きっとそれも受け入れるんだと思う。
そしてそれもきっと。こいつはわかってるのだ。
「山ちゃん…なんか…すっげかわいい」
「…っ」
「い゛…て」
それは受け入れんけど。
2010.2.28