桐青

□newborn
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山ちゃん、って呼んだら、んー?って返ってくる。雑誌を開いてこっちを見ないのは怒ってるとかそんなんじゃなくて、いつもの、当たり前な空気…って感じのやつで。
一緒にいんのが当たり前になって、隣にいんのが自然で、同じ空気と時間を共有してさ。
例えばテーブルにはお菓子やジュースやケーキが並んで、テレビはつけっぱで個々にやりたいようにしてる、そんな空間。
名前を呼べば返事が来て、そんな当たり前がたまに特別に感じてしまう、俺のこの純情っぷり。


「…なんだよ」


名前を呼んだっきり話を切り出さない俺の方を向いて山ちゃんが笑った。
目、眉、口、鼻、頬やでこ、笑った顔を象るひとつひとつを観察していると、見すぎ、という声と同時にそのひとつひとつが違う形に変わった。

目を離さぬままどんどん顔を近付けていく。触れる寸前、首を傾げて目を閉じれば、山ちゃんも同じように少し首を傾げて目を閉じて待つ。(この時に少し上を向くのが好きだったりする。)
俺のより厚い唇に触れると、さっきから山ちゃんが気に入って食べてるスナック菓子のせいで唇に油がほんのり乗ってポカポカしていた。
いつもと違う感触に、あ、これいい、なんて思いながら上も下もしつこく舐めて食む。


「ん……裕史、」
「ん?」
「ケーキ」

コンビニで買った2個入りのショートケーキ、甘いのは得意じゃないしいいよと断ったが、せっかくじゃんと山ちゃんが選んだイチゴの生クリームケーキ。

「…ケーキより山ちゃんが食いたいんスけど」
「俺はケーキ食いたいー」
「……じゃあケーキと山ちゃん一緒に…」
「裕史、」

少し真面目な顔と声音をした山ちゃんに、首を傾げて見せた。

「ケーキ。食お?」





いつからかなー。
山ちゃんの。
あまり他人に干渉しないさせない性格とか、いつも緊張感のない雰囲気とか、オモテに出さない表情とか。

知りたい、と思った。
なぜか、俺には見せてくれる、っつー自信もあった。


「もう先食っちゃお」

ケーキを口に入れる寸前で止まって俺の方を一瞥、

「…おめでとさん」

パクリとケーキを口に運んで、照れを含んだ顔は楽しそうで。
またひとつ、新しい顔を知った。



山ちゃん、って呼んだら、んー?って返ってきた。
当たり前の中の特別、何気ない日々の中。
新しいカオをまたひとつ、知らないカオもまだまだだと知って。


「サイコーっす」



これだからいいんだよ、誕生日ってのは。




6.2 HAPPY BIRTHDAY!Yuji☆


2010.6.9
こっそりフリーです。
もし良ければお持ち帰りください☆
6月いっぱいまで。



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