らーぜ☆

□1年という距離
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ふとした瞬間に
素顔というか…
やっぱ年上だなって思う時がある





「浜田ー、今日お前ん家行ってい?」
「わり、今日バイト…」
「いい。待ってる」

手を出してそう言うと、やつはへらりと笑って周りに気付かれないようにカギを手に乗せた。

嬉しそうにするもんだから俺も嬉しくなってしまう。でもそれを素直に伝えてやる気は毛頭ない。

「きもい」
「へへ」

それでもやつには伝わってしまうんだからイヤになる。






最近なんとなくだけど疲れてるように見えて、癒してやろうと思って…

いや別に俺で癒してあげるとかそんなんじゃ断じてない!断じて!!

ただ一緒にいるだけで、とか話聞いてやるだけで、少しでも楽になってもらえればと思っただけ、うん。





部活を終えて浜田の家に直行した。預かったカギでドアを開ける瞬間はなんとも言えない嬉しさを感じる。


勝手にシャワーを借りて勝手に浜田の服を着る。
飯は作れないからご飯だけ炊いておいた。
テレビを見ながらベッドに転がる。


はまだのにおい…

くやしいけどすげー安心すんだよな
急に睡魔がやってきて枕をかき寄せた。
よかった…まだおやじ臭くない…




ガンっガンっガンっガンっ



「…ん」

寝ちまってた。
遠くから階段をのぼってくる音がする。
浜田かな?でもいつもと違う音。



―ガシャン


「おかえ……り…」
「…ただいま」



一瞬背中が冷えるような感覚が走った。浜田の機嫌の悪い顔や声はあまりお目にかかることがないから。

でもそれはすぐに笑顔に切り替えられた。



ムカつく…


だから浜田に抱き付いた。
そうしないとこいつ隠したままで…
そんな浜田見たくなくて。


「俺その顔キライ」
「えーヒドいなあ」
「俺の前で無理すんなよ」
「……」


ヒドいのはどっちだ。

大丈夫、…無理してる
大丈夫、…優しくしないで

そんな顔したお前見て俺は頑張れなんて言えない。



「ありがと。じゃあ今日一緒にいてくれる?」
「ん。」


そんなんでいいなら
そんなんで楽になるなら
俺でいいなら…



浜田が風呂に行って、一緒に飯食って、一緒にテレビ見て…
俺の後ろに回り込んだ浜田に体重を預けると肩に顔を埋めてきた。


「最近さ、バイトでミスっちゃって…客には怒られるは先輩には嫌味言われるはでさ…
16歳には難しいことだってあるっつの」


初めて聞く浜田の愚痴に、自分の知らない浜田がいることに気付いた。

俺はまだ働いた経験ないからわかんねーけど、お金をもらうってことは大変なことで。



俺らの「疲れた」とこいつの「疲れた」は似てるようで違うと思う。

学校で仲間たちと身体を酷使して疲れるのと、いろんな世代の中で客相手に身体を酷使して疲れるのではまるで違う。

そのことを俺は今まで気付かなかった、見ないフリをしてた。




手を伸ばして金髪を撫でると顔をあげて頬にキスしてきた。
今日は素直に応えてやる。
体勢を変えて浜田の首に腕を絡めた。


俺とこいつの間にある1年は埋めようもなくて。
それどころか1年経って俺が今の浜田と同じ年になっても、浜田には追いつかないと思う。

どんどん、どんどん先を行く人。
俺の知らないことをたくさん経験して大人みたいな顔するんだ。


だから置いてかれないように、必死に縋りついた。




「泉、ありがとな」
「ん…」
「たまにはこういうのもいいな」
「ん。」
「また明日から頑張れるよ」


この浜田の笑顔に癒されて、甘えてるのは俺のような気もするけど。

無理すんなよ、て小さい小さい声で言った。
無理して欲しくないのは本当。

でも
またこうやって俺を必要として欲しいのが本音。



「泉…しよ?」


たまに振り返って歩幅を合わせてくれるのも、まだ俺にはできないこと。


「いでででっ…いずぃ、いはい!」
「お前なんかっ、ほっぺたつねりの刑だ!!」



だから今のうちに甘えておこう。




2009.9.17



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