らーぜ☆

□金木犀の咲く頃
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「はないー!これ買って!」
「ん、これでいいのか?」
「おう!」

田島が持って来たものを受け取ってレジへ並ぶ。
部活帰りのいつものコンビニ。もう顔馴染みになりつつある店員にどうも、と挨拶して外でみんなと待ってる田島の元に行った。

田島は満面の笑みで両手を器にして、みんなから色とりどりの小さな四角のチョコをもらっていた。

今日は田島の誕生日だが、今の時期練習試合や試合が多く時間が取れないため、栄口が言った「100円以内ならなんか奢ってあげる」の一言にみんなが賛同した。
100円以内にも関わらず田島は、みんなからだとすげーことになるからと30円程のチョコにしたらしい。
まあそれは俺には当てはまらなかったが。


それから今日は2人で帰ることになった。自転車を押して、ゆっくり遠回りして。


「なあ、本当にこれで良かったのか?」
「おー。みんなと違うものだからさっ」

先ほどのコンビニの袋から田島に買ったものを渡す。みんなと違うものだから、その言葉の意味に自分の口元が緩むのが判った。


「なーこれなんの匂い?」
「金木犀だろ」
「キンモクセー?」

最近におい始めた花の香りをくんくんにおって、オレこれ好き!と笑顔を向けてきた。
思わず見入ってしまって伸ばしかけた手を引っ込める。


こいつといると調子が狂う。
天真爛漫で素直なままに真実をつき付けてくる。
度が過ぎるところもあるけど間違っちゃいない、好きなことには忠実で嫌なことはどーにかなるで済ませる。
それで俺は自分のペースが乱される。


引っ込めようとした手はなぜか田島の手に捕まっていて、相手を見やるとニヒッとした恋人の顔とぶつかった。
周りを見回して誰もいないことを確認して少しだけなら、と繋いだ手を許してしまう。



遠回りをしてもすぐに着いてしまう田島家の前。
結局手を最後まで離すことができず自分の甘さを戒める。


じゃあな、と言って自転車を返そうとすると服の裾を引っ張られた。
ああそうだった、おめでとうって言ってなかったな。危ねー。

「たじ…
「はない、キス!」
「っ、はあ!?」

そんな上目遣いで言われても…ここは断るところだ俺!

「ダメだ。外ではダメだって前も言っただろ」
「え〜いいじゃん。今日はトクベツ!」
「…帰るかんな」


ちぇ〜ケチ、と田島の低い声と共にトクベツ、という言葉が脳内を何度も繰り返す。
折角の誕生日に不機嫌で別れるのは俺も避けたい。今日はトクベツなんだと自分に言い聞かせる。


「田島っ」


押していた自転車を素早く止めて、玄関へと足を進めていた田島の肩を引く。バランスを崩しかけたところを抱き止めてお望みのキスを送った。

舌で唇を割るとすんなり中へと入れてくれた。上顎を滑り伸びてきた舌を絡め吸い取る。漏れる息も惜しくて項に回した手に力が入る。

キスに夢中になりながら余裕がない自分に、戒めたのは何分前の話だ、とどこか冷静にツッコミを入れた。



「誕生日おめでと」


充分に田島を味わった後、耳元で囁いてやったら暗い中でも紅くなってるのがわかった。

ぼふっと抱きついてきたかわいい恋人のおでこに軽くキスを落とし、じゃあなと頭を撫でて離れた。
また明日な、と言って自転車を漕ぎ出すと後ろからでかい声がした。

「はないー!ゲンミツに愛してるぞー!!」
「おま、こら!でかい声で言うなー!」


こんなことで顔が熱くなるなんて、俺も相当おかしいな。
顔の熱を冷ますにはいいこの気温に感謝した。




田島は

金木犀の花と同じで、
あの小さな体でしっかり存在感を知らしめる。

あいつの変わらない魅力。

それに俺は来年も再来年もこれから先ずっと、どんな形であれ、金木犀の季節になる度にこの初恋を思い出すんだろう。




10.16 HAPPY BIRTHDAY田島★


2009.10.17
金木犀の花言葉3つ入れてみました^^どれか解りますか??←



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