らーぜ☆

□warmth.
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「泉、今度の土曜日家来んだろ?」
「あ?なんで」
「誕生日じゃん?」
「あー…しゃーねえな」
「じゃっ、そういうことで!」

あーあ。嬉しそうに笑いやがって。お前が喜んでどーする。
緩んだ顔のままグラウンドに走って行った背中を見つめて溜め息をひとつ吐いた。



冷たい風が次々と頬を掠める。ぼそぼそと耳にかかり浜田の声が聞き取りづらい。
闇色の空を見上げると髪が逆さに揺れた。
陽が落ちるのがすっかり早くなった街灯に照らされた道を、自転車に2ケツしながら浜田の家に向かう途中。

「家にケーキあっから」
「まじで!」
「おうよ!泉のために奮発したんだぜ。イチゴとか超でけえの!」
「おお〜よくやった浜田!」


そういえば。
最近はバイト三昧みたいだった。それでも、眠そうにしながらも朝練に付き合って、授業中は爆睡。なにやる気になってんだと、その時は思ってた。けど。
まさかこのためだったとは。



部活が終わって駐輪場でみんなと別れて、街灯の下で浜田を待ってた時。
聞き慣れた声がしたと同時に、首元がふわりとした優しい感触に包まれて反応が遅れた。

「泉!お待たせ。はいプレゼント!」
「ん…、マフラー…?」
「そ。泉中学の頃使ってたやつまだ使うつもりだったろ?高校生になったコースケくんに新しいマフラーをプレゼント!うんうん」
「はいはいそりゃどーも」

いやまあ新しいの買おうかと思ってたけど…なんでそれを知ってんだって話だ。
口には出さず、マフラーをキレイに巻き直している浜田を睨む。気にせずあーだこーだ整えてる浜田に溜め息を吐いてその手元に目をやった。
目の端に映ったのは黒っぽい色の生地に、ブランドに興味のない俺でも見たことのある名前のついたタグ…。

「ばっ!これ高かったんじゃねーの!?」
「え?…まあ、高いか高くないかで言ったら…高かった、かなあはは!」
「あははじゃねえよ!そんなのもらえねー」

返そうとマフラーに手を掛けると、それに手をあてて優しく制止された。

「泉がもらってくんないなら…捨てる」

……反則だ。
ね、だからもらって?って、悲しそうに笑って。
それで断れるやつがいるか!
了承の意味でマフラーから手を離すと浜田の空いた手は俺の頬を滑った。こんなに寒いのに太陽がひょっこり現れたみたいに暖かかった。
嬉しそうに笑って。認めたくないけどそれが心地よくて。



そうだ、野球の練習もさぼらずバイトに明け暮れてたのはこれのせい。
朝は欠伸ばっかして。でも遅刻もせず練習に付き合ってくれて。授業中は爆睡して。たまにクマ作って。
それでも疲れただのしんどいだの文句たれずにへらへら笑って。
今思えば
相当頑張ったと思う。
相当キツかったと思う。

それが自分のためだなんて

「…っ、バカはまだ!」

顔に熱が集まった気がして、できるだけマフラーに顔を埋めた。

冷たい風が次々と頬を掠める。
紅く染まった頬は寒いせいにして。早く頬の熱が冷めてしまえばいい。

目の前の広い背中がいつもより逞しく思えて、そっと手を回した。



11.29 泉☆HAPPY BIRTHDAY!


2009.12.9


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