らーぜ☆

□D.C.
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(好きだ…好きだ…好きだ…)



泉を壁に押し付け逃げ場を無くしてから唇を塞ぐ。
抵抗する体は力ずくで抑え逃れようと背ける顔は無理矢理上を向かせ、洩れる息ごと深く貪っていく。

唇を噛んだって鳩尾殴ったってタマ蹴ったっていいのに。そうしてくれた方がいいのに。
泉はしない。
だから、さ。

「ぅ…ン…」

(とまんねっての)



好きだ、なんて言ったら、きっと止められないから。
一度言ってしまったら、場所がどこだろうと周りに誰がいようと自制できる自信がない。


抵抗していた腕の力はとっくに抜けていたけど掴んだ手の力はそのままだった。
もしこの手を離したら、自由になったその手は俺の背中に回してくれる?
縋るみたいに服を掴んでくれる?

(…ないな)

この手を離せば重力に従ってだらんと垂れるだけ。
背中に回されることも突っぱねることもしないだろう。
だから、そのまま。
ぎゅっと瞑られた目はただ今の状況を耐えているだけのように見えて、安堵のような焦燥のような感情を抱かせる。



好きなのに、
好きだから。


口に出すことだけはしない、こんなことをしてしまう俺の、これだけは譲れない最低の足掻き。それを泉はわかってて、バカだなって、こうやって受け入れてくれるんだと思う。



「…っ」

泉の腕に一瞬力が入りその反動でしまったと思い唇を離した。
少しやり過ぎたかもしれない。
泉は酸素を求めて大きく息を吸って噎せた。

「ご…め、」
「あ…やまんなら…んなよ」
「………ごめん」

しっかり俺を見据える大きな瞳を見れずにただ足元を見ていると泉の足が動き出した。咄嗟に顔を上げ、俺と壁の間からするりと抜け出した泉の腕を掴んだ。
…けど、なにも言えない。

「もう、いいって…」

今度は俺が泉を見つめたけど、泉は背を向けたまま低く呟いてそのまま腕を解いて行ってしまった。

耳まで赤らめて手で口を抑えはや歩きで行ってしまう後ろ姿がやっぱり堪らなくて、


(…また、やっちゃうんだろうな)





まだその時じゃないから。
俺にとって、何より泉にとって優先しなければならないことがある。
またバカなことを繰り返すのかもしれないけど、それでも。
まだ、言えない。







――ダ・カーポ

2010.4.24


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