忍足受

□この気持ちに…気づくまで。
1ページ/2ページ



「好きだ。付き合え」

「ハァ!?!?」


この男は…いきなり何を言いだすんや…。

別のクラスの筈の跡部が、俺のクラスに堂々と入ってき、

女子の視線を浴びながらそんなことを抜かしてきた。


一瞬で教室内はざわついた。

跡部の目は…確実に俺を捕らえていた。


「(パチンッ!)」


いつもの如く、指を高らかに鳴らし

教室にいた者は静かになる。


「ここじゃなんだ。来い」

「ちょ、ちょお待ちぃな!状況が一切理解できひんのやけど」

「いいから、来い」


腕を乱暴につかまれ(左だが…)、

そのまま階段へと引っ張られた。


そしてついた場所は、屋上。

…頭がついていけんわ。


「おい、忍足。返事は」

「返事は、ちゃうねん!よぉと説明せえや」

「ああ、もっとはっきり言われたいのか。
 この俺様をお前の恋人にしてやる、と言っているんだ。…まだ物足りねえか?」

「ああ、ああ、もうええわ!冗談にしちゃ、おおごと過ぎるで。
 あんな人がおるとこで…他のクラスにまで広まるやろ」

「…冗談だと言いたいのかよ」

「はぁ?当たり前やろ」

「…ざけんな」

「…へ?」

「ふざけんな!俺の気持ちは本物だ。誰に何と言われようが変わらねえ。何だ?軽蔑でもしてえのか?」


跡部の目は鋭く俺を刺した。

初めて見る跡部のその顔に、動揺を隠せない。


「…ちょ、跡部…?落ち着こう…。な?」

「二度と冗談なんて言うんじゃねえ。俺は2年前からお前のことを好きだった。
 その間に何度もお前が他の女と付き合っていくのを見ていられなかった」


心なしか、一瞬、跡部の顔が悲しげに歪むのを感じた。


「……、ほんま…なん?」

「……ああ」


…あの、跡部が?

俺のことを好きやて…?


そういえば跡部はモテている(レベルじゃない)のに

女と付き合ったということは一度も聞いたことがなかった。

疑問に思ったが、ただ単に面倒臭いからだと思った。


……ほんとに…俺のこと好きで、だから告白を全部断ってきたのか…?

…いや、嘘、やろ…?


だけど跡部の目は恐ろしく真面目で、冗談を言ってるようにも思えない。


「今、お前に付き合ってる奴がいねえと聞いて、今しかチャンスはねえと思った」

「…………え、と…俺は…」


声が掠れるほどにしか出ない。

いつもの冷静さまでも失ってしまう。

今の状況に耐えられなくて、思わず顔を俯かせた。


「返事はまだいい。だが、俺は全くもってお前を諦めるつもりはねえ」


跡部は俺の顎をくいっと持ち上げ、俺の目を真っ直ぐに見据えた。

改めて見る跡部の目はとても綺麗で、思わず目を奪われる。

すると跡部の顔がゆっくりと近づいてきた。

視線は自然に唇の方へ移っていた。

残り数センチというところで、反射的に目を閉じる。

…しかし、何もなく恐る恐る目を開けてみると、耳元に口を近づけられて、


「お前を俺だけのものにしてやる」

と、吐息混じりの声で囁かれた。


「…っ!?」


きっと、今の俺の顔は真っ赤に染まっているだろう。

って…俺、されるがままやん…。

ありえんありえんありえん…

もう、何やねん

あんなん反則やわ…


「少しは、俺の元に来てもいいと思っただろ?」

「お、おおお、思ってへんわ、阿呆!はよ、離れろや!」

「ほぅ…その割りには抵抗はなかったようだがな。今だって逃げようともしないじゃねえか。
 
 …まあ、そういうところが凄く可愛い」


最後の言葉をまたも耳元で囁かれりゃ、堪らない。

今度は跡部の熱い息までも感じた。


「っ!?も…、耳元はやめぃ!」


跡部は、案外スーッと身を引いた。


「…期待した癖にな」


跡部が何を言っているのかはすぐ分かった。


「して、へんわ…」

「あんなに俺の唇に見入ってたのになぁ?」

「ち、違うわ!あれは…!」

「安心しろ。お前と付き合うまで手は出さねえから。無理には嫌いだ」

「付き合う前提かい…さすが跡部やな」

「漸く本気だということが分かったようだな」

「…これで嘘やったら、絞め殺そか」


すると跡部はフッと笑い、

「お前にだったら殺されてもいいかもな」

なんて言うもんだから、一発、軽く殴っておいた。


よく考えれば跡部の今日、初めての笑みだ。

やはり跡部は笑顔が綺麗だ。

元々の顔立ちが良すぎるからか、ますます輝いて見える。


少しドキッと心臓が鳴ったのは、この際認めてやる。


「あ、はよ部活行こ?部長が遅れたら話にならんし」

「……お前さ」

「…?何?」

「今更言うのも可笑しいかもしれないが…引かねえのか?」


いや…今更すぎんやろ。

あんだけ人を弄んで置いて…。


「…あー、別に。男に好かれることなんかよくあることやったし…。まあ…さすがに跡部が、てのはびっくりしたけどな。
 てか、自分もそういうこと思うんやね。意外やわ」

「悪りぃかよ」

「あんだけ俺を追い詰めておいて…。…自分、結構可愛えとこあるやない」

「……からかってんのか」

「いーや。本気で思ってるだけやけど?」

「馬鹿らし。(てめえのが可愛いっつの)さっさと行くぞ」

「…はいはい」


跡部の心の中が読み取れた気がしたが、…気づかない振りをしておこう…。


俺が跡部のことをどう思ってるかとか…よぉ分からんけど…

確実に…気持ちがお前の方にいってる気がする…。

…悔しいけど。

けどまだ何も言わん…。


この気持ちが…はっきりするまで…。




そして、噂を聞きつけたらしい岳人と覚醒した慈郎から

しつこい程にからかわれたのは、後の話・・・。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ