銀月(後)2
□高天原へようこそ
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此処はかぶき町の一角、風俗街。
煌々とネオンが輝き、派手な化粧をした女やスーツ姿の男が通りを歩く。
「眠らない街」の言葉の通り、此処では夜の闇は陰を潜めただ煌びやかな偽りの光が街を照らしていた。
そんな街の中でも一際大きく華やかな店がホストクラブ「高天原」である。
オーナーであり、bPホストでもある狂死郎の絶大な人気の笑顔を求め、今日も高天原には女達が店を訪れていた。
そんな女達を、きらりと光る笑顔で出迎える男が一人。
「いらっしゃいませ、高天原へようこそ。」
銀色の髪に派手なスーツを身につけた男は、普段は見せないきりりとした笑顔と共に客の女を店内に案内する。
「あら、お兄さん見ない顔ね。御指名しようかしら。」
「すいません、俺はただの案内役なんで、お客様の相手は出来ないんですよ。」
あら残念、と顔をしかめる客にすまなそうに頭を下げると、男は客の為にドアを開けた。
きらめく光の中に客が入ると、そっとドアを閉める。
完全に店のドアを閉めると、銀時はふぅ、と息を吐いてネクタイを緩めた。
ネクタイと同様、先ほどまで引き締めていて顔の筋肉も緩め、店の壁にもたれかかる。
「あーーーマジ疲れた。面倒くせー。なんでホストクラブなんかでバイトしなきゃなんねぇんだ。」
ブツブツ呟いていると、再び賑やかな笑い声をあげる女の姿が見えた。
銀時はささっとネクタイを締め、再び顔を引き締め、笑顔を作った。
「いらっしゃいませ。」
***
銀時がお登勢に家賃の催促をされたのは数日前の事。
たまの火炎放射機能付きモップを眼前に付きつけながら、そこら辺のやくざが尻尾巻いて逃げだすような迫力で家賃の請求をする状態を”催促”と呼べるのなら、であるが。
脂汗をかいて目を泳がせる銀時の前に、お登勢が請求書を突き出す。
「もう3ヶ月分家賃滞納してるんだからね。いい加減払ってもらうよ。」
「い・・・いやぁ、この不況で仕事の依頼が少なくて、だな。ババァ、いやお登勢様、もうちょっと待って・・・」
「仕事なんてする気が無いくせに適当な事言ってんじゃないよ。アタシがちゃんと仕事見つけてきたからさっさと働きにいきな。」
そう言ってお登勢が取り出したのは、二枚の求人票。
『ホストクラブ高天原 接客・給仕係募集』
『かまっ娘倶楽部 ホステス募集』
ぴらぴらと求人票をひらめかせながら、お登勢は閻魔様でも逃げ出すような笑みを浮かべた。
「ホストクラブの雑用係とオカマとどっちが良いかい?」
その言葉に、銀時は黙って高天原を指した。
***
求人に応募してきた銀時を、狂死郎は笑顔で出迎えた。
「今回私が求人だしたのは店頭での案内役とウエイターなんですが・・坂田さんならホストでもいけますよ。時給もいいですし、そちらでどうですか?」
その申し出を銀時はありがたくも辞退した。
一応自分は現在彼女持ちの身である。
仕事とは言え、さすがにホストをやるのは自分の道徳心が許さない。
金の話を言うと、かまっ娘も相当時給は高かったが、これもまた仕事とは言えオカマ姿などバレてはたまらぬ、という理由で避けたのだ。
「俺そういうの苦手なんで。一応案内係兼ガードマンっつ―事でどう?」
銀時の言葉に、良いですよ、と狂死郎は華やかな笑みで応えた。