銀月(後)2
□愛の試練
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「ぬしら何じゃ、そのザマは。」
ひのやの奥の、囲炉裏の部屋。
囲炉裏を囲んで、年始の挨拶に来た銀時・新八・神楽の3人が座っている。向かいに座る月詠は、この万事屋三人を見て、大きくため息をついた。
年末から10日程会っていなかった3人は、この年末年始の間に以前の面影がないほど見事に太っていた。
どうすればこの短期間にこれだけ太れるのか、と聞きたいくらいだ。
「全く・・銀時はともかく、新八がついていながら何しておった。」
「ちょっと待て俺はともかくってそれ何だァァァァァァ!?」
「銀ちゃんは不摂生の鏡アルからな。当然アル。」
「すいません・・・・コタツの誘惑に・・・ついゴロゴロと。」
「コタツは魔物アルよ、ツッキー。アレこそこの世の最強ラスボスネ!」
丸々となった3人の顔をちらりと見ると、月詠は煙管を口から離し、ふぅ、と煙を吐いた。
「ならばちょうど良い。吉原の修行コースでちょっと運動して行きなんし。
わっちも昔修行した所じゃ。神楽と新八は強くなりたいと言っておったろう?ちょうど良い修行になるぞ。」
「え?ホントですか?」
「ダイエットと修行が一度に出来るなんて、さすがツッキー、出来る女アル!」
「おい、こいつ等はともかく、俺は修行なんてする気ねぇぞ!!帰る!!」
「・・・銀時。1週間以内に元の体型に戻らねば、ぬしとの仲もこれまでじゃな。」
煙管を手に、月詠が死神太夫の顔で銀時を睨む。
方膝を立て立ち上がろうとしていた銀時は思わずう、と唸ってその足を収めた。
「・・・修行させて頂きます、太夫。」
「よし、これで3人決まったな、行くぞ。」
「「おう!」」
そして張り切る新八・神楽と、やる気が全くない銀時は月詠と共にひのやを出た。
***
月詠が向かったのは、吉原の外れにある壁部分。
地上へのエレベーターとはちょうど反対側に当たる。だが、辿りついたそこには壁以外それらしいものは何も無い。
鉄の壁を前にして、銀時達は首をひねる。
「どこに修行場があるんだ?」
「ここじゃ。」
月詠がなにやら壁にあるボタンを押した。すると1から9までの数字の書かれたボタンが壁の中から現れる。月詠は慣れた手つきでボタンを次々に押した。
「此処は普通の者が入っては危険なのでな。普段は鍵をかけておる。」
「・・厳重なセキュリティだな。」
最後のボタンを押すと、ゴゴゴと音がして壁の一部が開いた。開いた先は薄暗く、良く見えない。
「ここが入口じゃ。この先が部屋になっておる。」
中はトンネルのようになっている。先導する月詠に続いて3人は恐る恐る中へ入った。
トンネルの奥には再び扉がある。慣れた手つきで再びセキュリティを解除すると、月詠は3人を中へと誘った。
「ここは・・・?」
トンネルの向こうには、明るいジャングルが広がっていた。
高い天井は見えるから此処も地下なのだろう。だが植物が生い茂っているので、その先がどうなっているのか、この部屋はどのくらいの広さなのか分からない。
「こりゃ、なんだ?」
すると後ろでバン、と音がしてトンネルへの扉が閉まった。
「ちょ、月詠なんだここは!!」
銀時が扉を叩く。するとガガガ、とスピーカーの音が天井から鳴り響いた。
『ここが修行場じゃ。』
外からマイクで話をしているのか、部屋の中に月詠の声が鳴り響く。
『ちょっとした無人島くらいの広さはある。中には池があるので水には困らんし、果物が生る木もあるぞ。』
「オイ、お前もしかしてここで無人島生活しろってのか?俺達はよゐこじゃねぇんだぞ!!」
「それにツッキー、これじゃただのキャンプで修行にならないネ!!」
『安心しなんし』
その時、グググ・・・とジャングルの奥から獣の呻き声のようなものが聞こえた。
「・・・銀さん、今の声なんですか?」
「か・・・神楽の腹の音じゃね?」
「失礼ネ、私じゃないアル。」
ガサガサ、と音がして、目の前の草むらが動いた。茂みの陰からギラリ、と大きな目が光る。
「ちょ・・・銀さん!」
「何だあああ!!!」
いきなり何やら大きな生き物が飛び出してきて、3人は猛ダッシュで駆け出した。
後ろから追いかけてくるのはワニのようなトカゲのような、背丈3mはあるどう見ても恐竜としか呼べない生物。
「こんな生物・・・見た事ねぇぞおおおお!?」
「多分これ外来種ネ。ジュラシックパーク星にいるってテレビで見た事アルネ!」
「な・・何でそんな生物が此処にいるんですかあああああ!?」
全速力で恐竜から逃げる3人の頭上に、月詠の落ち着いた声が響いてきた。
『実は鳳仙は猛獣を飼うのが趣味でな、此処はもともとそいつらの庭なのじゃ。で、時折吉原で悪さするものがおったら、此処へ放り込んで餌にしとったらしい。』
「此処は単なる処刑場じゃねぇかアアアア!!」
「僕達食べられちゃうじゃないですかアアア!!」
『安心しなんし。わっちも昔、1週間此処で生き延びられたら弟子にしてやる、と師匠に此処に放り込まれてな。何とか1週間生き延びたのじゃ、ぬしらなら大丈夫じゃろう』
「何そのピッコロさんと悟飯君的な修行スタートおおおお!!俺達ぁサイヤ人じゃねぇぞおおお!!!」
「そうですよ、助けて下さい!!」
「そうでも無いアルよ、銀ちゃん、新八、結構コレ美味いアル。」
振り向くとそこには倒れた恐竜と、その一部を切り取って火であぶっている神楽の姿。木の枝に刺したそれを焼いては、美味そうに食べている。
「ここにリアル悟空イターーーー!!!」
だが、恐竜もどきは次から次へと現れ、銀時達を追いかけて来る。
食事中の神楽を置いて新八と銀時は再び駆け出した。
「ちょ・・・宇宙最強民族神楽さんはともかく、シティ派の俺には無理だって、これ!」
「月詠さーーーーん!ちょっとこれどうにかして下さい!!」
『1週間したら開けてやるからな、では無事を祈る。』
ぷつり、と放送が途切れて、部屋の中は再び静まり返る。
「・・・銀さん。」
「新八・・・。」
気がつくと、自分達の周りを恐竜もどき達が囲んでいた。どの目も激しく光り、口から涎が垂れている。
「ぎ・・・銀さん。」
「なんだよ、ぱっつあん。」
「ここの恐竜達って・・・鳳仙の時代は吉原の犯罪者を餌にしてたんですよね・・・」
「そう・・みたいだけど?」
「なら銀さんが鳳仙倒してから・・誰が餌あげてたんでしょうか・・・。」
「・・・。」
目の前の恐竜達は明らかに興奮していた。その瞳に映るのは『飢え』の文字。
「「だ・・・・出してくれええええええ!!!!」」
***
1ヶ月後。
「ねぇ月詠。最近銀さん見ないけど、喧嘩でもした?」
「あ・・・。」
煙管を口にしていた、月詠の動きが止まった。その顔がみるみる青ざめて行く。
「忙しくて・・・出してやるの、忘れてた。」
やせ細った銀時と新八、良い食事と運動のおかげで健康的にやせた神楽を月詠が発見したのは、その30分後の事である。
終
◎よゐこの無人島生活、好きなんです。(そう言う問題ではない)