銀月(後)2
□雪の降る日に
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見回りを終え百華の詰所を出ると、暗い夜空から白いものが舞い降りて来ていた。
雪だ。手のひらを広げそれを受け止める。ふわふわとした白い塊はすぐに透明になり、溶けて小さな水たまりとなる。
だがこうして直に雪に触れるのが楽しくて、月詠はそのまま手のひらを広げて雪が溶けるのをじっと見ていた。
この雪は、いつから『雪』なのだろう。地上に落ちればすぐに溶け形は無くなる。
ただの氷だと言われればそれまでなのだが、こうして空を舞う姿はまるで命を持っているかのようだ。
ふと気付くと、ちらちら降っている程度だった雪は、かなりの大降りになっていた。月詠の黒い衣も、雪が張り付きところどころ白いブチ模様が出来ている。
この分なら明日は積もるかもしれない。晴太が喜ぶかな、そんな事を思っていたら急に体が冷えて「くしゅん」と月詠は小さくくしゃみをした。
「風邪引くぞ。」
「・・・?」
声がして、頭上に傘が現れた。
「・・・銀時。」
「ったく、こんな夜中にぼーっと雪見てたら体冷えるだろうが。雪見てはしゃぐのは10歳までですよ、コノヤロー。」
「どうしたのじゃ?こんな時間に。」
今はもう牛三つ時。吉原の通りを埋めていた客たちは店の中へ消え、その店も扉を閉め街は静まり返っている。
「どうしたのじゃ?じゃねぇよ。今日は誕生日だろうが。」
「誕生日・・・。」
そう言えば誕生日の祝いをすると晴太が息巻いていた気がする。だがちょうど週末にかかり客が増えるのでパーティーを断ったのだ。
「だからわざわざ・・・?」
「ま、俺もさっきまでバイトしてたんで、その帰りなんだけどな。」
つーわけで、ハッピーバースデー。
傘を持ったまま、もう一方の手を銀時が掲げる。そこにはケーキ箱が握られていた。
「毎度金欠なんでアレなんですけど、今日のバイトがケーキ屋の仕事だったんで、一個貰ってきた。」
「・・・。」
「なんかイベントがあるっつーんでケーキ大量に作るって言うんで、さっきまでひたすらクリーム絞っててよ。うん、俺頑張った。」
いつもよりこの男から甘い匂いがするのはこのせいか。そう思いながら渡されたケーキの箱をそっと開ける。
白いクリームで飾られたイチゴのショートケーキ。そこには茶色のチョコで『HAPPY BIRTHDAy』の文字が描かれていた。
「・・・銀時。」
「ま、来年こそはちゃんとしたプレゼントするから。スロット必勝法をつきとめて。」
「・・・今の台詞、後半は余計じゃ。」
グサリ。
クナイが刺さって銀時は酷ぇなぁ、と目に涙を浮かべる。
「でも・・まぁ。」
箱のふたを閉めると、月詠はふ、と微笑んだ。
何だかんだ言って、こうやって銀時が来てくれることが、本当に嬉しい。我ながら色惚けにも程がある。
「じゃがまぁ・・今日くらいは良かろう。」
「ん?」
「銀時・・・今から一緒に食べるか?」
「夜中に食べると太るぞ。」
「どうせ9割はぬしが食べるのじゃろう?」
ケーキの箱を掲げると、銀時がニヤリ、と微笑んだ。じゃ、行くか、と傘を軽く傾ける。
一歩踏み出す。いつの間にかうっすら雪が積もった地面を踏むと、ぎゅぎゅ、と音がした。
空から舞い落ちる雪は儚い。吉原に舞う恋の言葉のように。
だけど深々と積もる雪のように、真の言葉はひとつひとつ、この胸に積もって行く。
月の光が雪に覆われた吉原の街を白く照らす。その中を、月詠は銀時と共にひのやへ向かって歩き出した。
終
◎誕生日にツッキーを出待ちする銀ちゃんを書きたかっただけです、ハイ。
ところでうちのサイトで銀ちゃんがツッキーにあげたもの。(私が覚えている分)
福引で当たったぬいぐるみ。バイト先で貰ったケーキ。金平糖。水筒の水・・・・・・・・
・・・・銀ちゃん、マダオ過ぎる(TT)←自分で書いたくせに