銀月(後)2

□雪の降る日に
1ページ/2ページ

見回りを終え百華の詰所を出ると、暗い夜空から白いものが舞い降りて来ていた。

雪だ。手のひらを広げそれを受け止める。ふわふわとした白い塊はすぐに透明になり、溶けて小さな水たまりとなる。

だがこうして直に雪に触れるのが楽しくて、月詠はそのまま手のひらを広げて雪が溶けるのをじっと見ていた。

この雪は、いつから『雪』なのだろう。地上に落ちればすぐに溶け形は無くなる。

ただの氷だと言われればそれまでなのだが、こうして空を舞う姿はまるで命を持っているかのようだ。



ふと気付くと、ちらちら降っている程度だった雪は、かなりの大降りになっていた。月詠の黒い衣も、雪が張り付きところどころ白いブチ模様が出来ている。

この分なら明日は積もるかもしれない。晴太が喜ぶかな、そんな事を思っていたら急に体が冷えて「くしゅん」と月詠は小さくくしゃみをした。



「風邪引くぞ。」

「・・・?」



声がして、頭上に傘が現れた。



「・・・銀時。」

「ったく、こんな夜中にぼーっと雪見てたら体冷えるだろうが。雪見てはしゃぐのは10歳までですよ、コノヤロー。」

「どうしたのじゃ?こんな時間に。」



今はもう牛三つ時。吉原の通りを埋めていた客たちは店の中へ消え、その店も扉を閉め街は静まり返っている。



「どうしたのじゃ?じゃねぇよ。今日は誕生日だろうが。」

「誕生日・・・。」



そう言えば誕生日の祝いをすると晴太が息巻いていた気がする。だがちょうど週末にかかり客が増えるのでパーティーを断ったのだ。



「だからわざわざ・・・?」

「ま、俺もさっきまでバイトしてたんで、その帰りなんだけどな。」



つーわけで、ハッピーバースデー。



傘を持ったまま、もう一方の手を銀時が掲げる。そこにはケーキ箱が握られていた。



「毎度金欠なんでアレなんですけど、今日のバイトがケーキ屋の仕事だったんで、一個貰ってきた。」

「・・・。」

「なんかイベントがあるっつーんでケーキ大量に作るって言うんで、さっきまでひたすらクリーム絞っててよ。うん、俺頑張った。」



いつもよりこの男から甘い匂いがするのはこのせいか。そう思いながら渡されたケーキの箱をそっと開ける。

白いクリームで飾られたイチゴのショートケーキ。そこには茶色のチョコで『HAPPY BIRTHDAy』の文字が描かれていた。



「・・・銀時。」

「ま、来年こそはちゃんとしたプレゼントするから。スロット必勝法をつきとめて。」

「・・・今の台詞、後半は余計じゃ。」



グサリ。

クナイが刺さって銀時は酷ぇなぁ、と目に涙を浮かべる。



「でも・・まぁ。」



箱のふたを閉めると、月詠はふ、と微笑んだ。

何だかんだ言って、こうやって銀時が来てくれることが、本当に嬉しい。我ながら色惚けにも程がある。



「じゃがまぁ・・今日くらいは良かろう。」

「ん?」

「銀時・・・今から一緒に食べるか?」

「夜中に食べると太るぞ。」

「どうせ9割はぬしが食べるのじゃろう?」



ケーキの箱を掲げると、銀時がニヤリ、と微笑んだ。じゃ、行くか、と傘を軽く傾ける。

一歩踏み出す。いつの間にかうっすら雪が積もった地面を踏むと、ぎゅぎゅ、と音がした。



空から舞い落ちる雪は儚い。吉原に舞う恋の言葉のように。

だけど深々と積もる雪のように、真の言葉はひとつひとつ、この胸に積もって行く。



月の光が雪に覆われた吉原の街を白く照らす。その中を、月詠は銀時と共にひのやへ向かって歩き出した。











◎誕生日にツッキーを出待ちする銀ちゃんを書きたかっただけです、ハイ。

ところでうちのサイトで銀ちゃんがツッキーにあげたもの。(私が覚えている分)

福引で当たったぬいぐるみ。バイト先で貰ったケーキ。金平糖。水筒の水・・・・・・・・





・・・・銀ちゃん、マダオ過ぎる(TT)←自分で書いたくせに
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ