銀月(後)2

□伝えたい、あなたに
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※398訓と399訓の間を捏造した話です。
一国傾城篇未読の方はご注意ください





***




万事屋で養生しているはずの銀時がひのやに現れたのは、江戸城から戻った数日後の事だった。

「その傷・・・銀さん大丈夫なの?」

心配する日輪に「ああ」と返事をすると、銀時は月詠の手を引く。

「コイツちょっと借りる。」

「・・・ええ、良いけど。」

「ちょ、銀時。」

ぐい、と手をひかれ月詠は抵抗しようとした。だが銀時の様子が少しだけ違う事に気がついて口を閉じる。

ちらり、と日輪を見ると「行っておあげ」とその目は語っていた。月詠は軽く頷くと銀時について行った。





少し歩くと銀時は連れ込み宿へと月詠をひきいれた。

扉を閉めるといきなり後ろからその体を抱きしめる。 舌を首筋に這わせると月詠の体がぶるり、と震えた。

「銀・・・時、ちょ。」

「悪ぃ、今日は待てねぇ。」

月詠の腰を抱えると、銀時はその体を床に押し倒すように倒れ込んだ。うつ伏せになった月詠の腰を抱えあげると、後ろからのしかかる様に体を密着させる。

「・・銀時、そんな体では・・。」

「痛かったら、言え。」

着物の裾が捲りあげられる感触がして、月詠は思わず目を閉じる。下着がずり下ろされると銀時の指が中に入って来た。

「・・っ。」

鈍い痛みは、すぐに慣れた快楽へと変わる。乾いた秘所は銀時の指が弄ぶ度に湿り気を帯びて行った。

指を抜き差ししながら、銀時は空いた手を月詠の胸元へ伸ばした。襟元を大きく広げると露わになった胸を力強く揉む。



「・・銀・・・大丈夫・・か?」

「気にすんな。」

「じゃが・・・まだちゃんと治っても・・・ぁ。」

秘所の入り口をこすられ、月詠がかすれた声をあげた。銀時の顔を見ようと後ろを向くが、首筋に顔をうずめているので見えるのは銀色の髪だけだ。



あの激しい戦いからまだ数日しか経っていない。軽い切り傷程度ですんだ自分と違い、銀時は何か所も深い傷を負っている。

一人で歩く事すらままならぬから、しばらく万事屋で大人しくさせよう、と新八と決めたくらいだ。性交など激しい運動をしては傷口が開きかねない。



「のう、もう少し治ってからで、いいではないか。」

「力、抜いてろ。」

「・・・ぅ。」

指が抜かれると、今度はもっと大きなものが月詠の中に押し入る。中を満たす感覚に月詠が一瞬息を飲んだ。







大きな戦いの後は、たまに銀時がこう言う風に荒く月詠を抱く事がある。

恐らく戦いによって興奮した感情が抑えきれず、性欲も高ぶるのだろう。今まではそう思い月詠も付き合って来た。



だが・・・

今度の戦いでは・・・銀時の心の底を垣間見てしまった。

今までも銀時の心の奥に『何か』がいる事は分かっていた。

この男を付き動かす何らかの原動力。

今まで当人に聞く事が出来なかったそれを、この前の戦いで知ってしまった。



『ぬしも、師を・・・』

月詠はあの続きを銀時に問いたい。しかし問えない。

それはきっと銀時の心をずっと苦しめている事。同時に彼の生き様の理由となっている事。



「銀時・・・。」

月詠は目の前にある銀時の手を握った。

彼の荒ぶりは、戦いによる高揚だけでは無い。もっと心の奥の何かを押しとどめる為のもの。



そう。

猛獣を・・・・獣を抑えるように。

銀時は歯を食いしばりながら、月詠を抱くのだ。





「銀・・・とき。怪我が・・・痛む・・・ぞ。」

「痛ぇくらいがいいんだ。」

動きは止まる事なく、銀時の声が耳元で聞こえた。荒い息に隠れるような、かすれた声。



「じゃが・・それでは・・。」

「痛みがねぇと・・・全部壊しちまいそうだ・・・から。」

「・・・。」

「俺ぁ壊したり・・・しねぇ。絶対に・・・。」

「・・・。」



はらり、と目の前に包帯が落ちてきた。振り向くと銀時の頭の包帯がほどけかかっている。

月詠は手を伸ばして、赤茶色の染みがついたそれを握る。



この男は、耐えている。

何かにずっと、耐えている。

敵に向かってでは無い、自分に向かって。



「・・・んぁ。」

強い突き上げに、月詠が思わず甘い息を漏らす。

銀時の苦しみを自分が救うことはできない。自分はそんなに大層な人間ではない。



だが。

彼にせめてもの快楽を。この瞬間だけの喜びを。ひと時でも安らぎを。

与えてあげられたら。



ふと、銀時の動きが止まる。頂点に達した訳ではない。繋がったまま動こうとしない銀時を月詠は訝しる。

「お前・・・。」

「?」

「これ。」

銀時が月詠の手を撫でた。その白く細い指には3本の糸がまかれている。



江戸城を出たあと万事屋達はそれを解いていたが、月詠は何となく解く事が出来ずにそのままにしていた。

鈴蘭との約束は全て果たされた訳ではない。まだ彼女は約束の相手と再会できた訳でないのだから。

だが、あの状況では自分たちそして六転が生き残る事ができただけでも奇跡。それ以上を望むのはできない。



「大丈夫だよ。」

「?」

「俺ぁ約束は護るから。」



月詠の指を、銀時が一本ずつ優しく撫でる。先程までの激しさとは別人のように優しく。



「銀時・・・。」

「あ?」

「ぬしの顔が・・・見たい。」

「・・・。」

「ぬしの顔をちゃんと、見たい。」

「・・・ん。」



銀時はいったん体を離すと月詠の体を仰向けに寝かせた。

月詠は大きく息を吐いて銀時を見上げる。

まだほとんど服を着たままの銀時は、やはり頭の包帯が取れかかっていた。

月詠は手を伸ばし、傷口に触れないようにそっと髪を撫でる。

自分のせいで銀時にこのような傷を負わせた事が申し訳なくて、ぎゅ、と唇をかんだ。



「気にすんな。」

月詠の想いが分かっているかのように、銀時が笑った。

「お前のせいじゃねぇ。俺ぁあのバァさんと約束しただけだ。」



約束――銀時にとってそれはどれだけ重いものなのだろう。

恐らく自分が思っているものよりずっと重い・・・大切なものなのだろう。

だから今まで命をかけて約束を護ってきたのだ、この男は。



「銀時。」

月詠は手を伸ばすと銀時の両頬に触れた。赤い瞳を真っ直ぐに見つめる。





「わっちは、ここにおるぞ、銀時。」

銀時がかすかに目を細める。



「わっちは ぬしを 好いておる。」



ひとことひとこと区切るように、月詠は、はっきりと言葉を口にした。

普段であれば月詠は好いた惚れたなど口に出すことはない。

だが、どうしても伝えたかった。



銀時が何か大切なものを失ったのはわかる。その喪失感を自分が埋められるとは思っていない。

だが、今、この瞬間だけでも、自分はここにいると。

銀時の事を愛する者がここにいるのだ、と。

伝えたかった。



自分は、銀時の事だけを考えることはできないけれど。

それでも好いていると伝えたかった。



「月詠。」

銀時がかすかに口を歪める。苦笑いしているようにも見え、泣きたそうな顔にも見える、不思議な顔。

名を呼んで、銀時が月詠の頬に、額に、唇に口付ける。太い首に腕を回すと強く体が抱きしめられた。



「大丈夫だよ。」

銀時が再び月詠を貫く。大きく息を吸いながら、月詠は快楽に身を任せた。

「・・ああ。」

「俺は、大丈夫。」

「ああ、銀時。」



何が、とは問わない。銀時も答えない。

だが、ひとつひとつ確かめながら自分達は生きるしかないのだ。



波に揺られるように、甘い律動が月詠を包む。

今だけでいいから、今はこの波だけを感じていたい、と月詠は月に願った。





***



目を覚ますと、窓の外が明るかった。時計を見ると既に朝になっている。

隣に寝ている銀時の頬をそっと撫でる。う、とうなって銀時が目を開けた。



「・・・まだ眠ぃ。」

その顔はいつもと同じ顔で、月詠は内心ホッとする。

「すまぬ、起こして。」

「・・・ん。」

銀時はごそごそと布団に潜り込むと、月詠の腰に抱きついた。胸に顔をうずめ、息を大きく吸う。



手に何か絡まる感触がして布団から手を出すと白い包帯が巻きついてきた。昨日のあれでかなり解けてしまったらしい。

「きちんと巻き直さねば。」

「あー大丈夫、もう大丈夫そうだから。」

「じゃが、のう。」

「俺肌弱いからホータイするとかぶれんの。だからもう良い。」

そう言って布団の中から出てこない男を見て、子供か、と月詠は呆れた。そしてこんな子供っぽい所を可愛いと思ってしまう自分に苦笑する。



「月詠。」

布団の中から声がした。

「なんじゃ?」

「それでも俺ぁ・・・今が悪ぃなんて、思った事はねぇよ。」

「・・・。」

「だから心配すんな。」

「・・・わかった。」



ぎゅ、と腰が強く抱かれ、静かな息の音が聞こえる。





眠ったのだろうか。否、眠ったフリをしているだけなのだろう。

それでもいい。今はそうやって。



この人に静かなひとときを。



月詠は手を伸ばすと、その銀色の頭を優しく抱きしめた。













***



◎このSS書きながら坂本真綾さん(冲田の中の人の嫁)の「NO FEAR 〜あいすること〜」を聞いてたらガチで泣けてきた。

名曲ダヨー。真綾ちゃんの曲はほぼ全部名曲だけど。

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