銀月(後)2

□熱帯夜
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喉の渇きを覚えて月詠は浅い眠りから目を覚ました。

部屋の中は薄暗いからまだ真夜中であろう。

部屋の天井を見て、ああ今日は万事屋に来ていたんだ、と気づく。

今日は神楽がお登勢一行と泊りがけの旅行に出ていると言うので万事屋に泊りに来たのだ。だが、クーラーの無い狭いこの部屋の熱気は、一応冷暖房完備のひのやとは大違いだ。良くこんな家でこの猛暑を過ごせると感心する。



むん、とする暑さに月詠は眉をしかめる。ここ数日の熱帯夜のせいで、夜ぐっすりと眠れた試しが無い。



汗の垂れる額を撫でる。肌がべたべたとしていた。



隣の台所へ行って水でも飲もうか。はぁ、と息を吐いた時、後ろからその腰がぐい、と掴まれた。

「なんじゃ、暑苦しい。」

巻きついた腕を振り払おうとすると、更に強い力で体が抱き寄せられた。背中が汗でべたついた男の胸と密着する。

「つれねぇの。」

「つれなかろうが何だろうが、暑いものは暑いのじゃ。離しなんし。」

「やだ。」

銀時の腕と足が月詠の体に巻きつく。べたべたとした熱い感触が体中に伝わる。



「喉が渇いたのじゃ。水を飲ませなんし。」

「水ならここにある。」

銀時は月詠の首筋を舐めた。ざらりとした感触にぶるりと月詠は震える。

「しょっぺぇ。」

耳元で銀時の笑い声が聞こえる。バカ者が、と月詠は呟いた。

「人の汗舐めて水分補給などなるか。」

「バカ言え。水分だけじゃダメなんだぞ。塩分も必要なの。」

そう言うと銀時は月詠の首筋から肩、背中にかけて舌を這わせた。いやいやをするように月詠が身を捩ると、その腕をとらえる。

舌が肌を這う感触に、月詠は熱い息を吐いた。先程熱を放たれたばかりの下腹部が再び熱くなる。

「やめなんし・・・・水を飲まぬと、本当に熱中症になるぞ。」

「そうだな、この暑さじゃおかしくねぇか。」

「分かったなら離しなんし。熱中症で裸のまま病院にでも運ばれた日には、わっちは世間に顔向けできぬ。」

「面白ぇじゃねぇか。」

銀時の指が、胸の中心をつまんだ。あ、と月詠の口から甘い声が漏れる。

「二人してセックスに夢中になって熱中症であの世言ったなんて、後世に残るバカ野郎になるな。」

「わっちはゴメンじゃ。」

月詠はくるり、と体の向きを帰る。薄暗い中に銀時のにやけた顔があった。

「水分よこしなんし。」

銀時の肩を掴むと、その首筋を舐める。口の中に塩辛い味が広がる。そしてわずかな水分。

なるほど、これなら塩分と水分が同時に補給できると言う訳か。悪くは無い。悪くは無いが。

「塩辛くて、喉が渇くばかりじゃ。」

ぺろり、と唇を舐めると、銀時の唇が触れて来た。目を閉じそれを受け止めると、口の中に熱い舌が差しこまれる。熱い腕に体が抱きしめられ、互いの汗が混じり合う程二人の体が密着する。



熱い。

部屋の空気も、下に敷いている布団も、この男の肌も、舌も、息も。

そして、それを受け止める自分の中心も、何もかもが熱い。



差しこまれた舌から、唾液が流し込まれた。これで水分取れとでも言うのかバカバカしい。

そう思いつつ、口の中を潤す水分に、思わず喉を鳴らして飲み込む。生ぬるい液体が喉を通って、それでも少しだけ渇きが言えた。

唇が離される。目を開けると銀時の顔が間近にあった。



「これで足りる?」

「足りるか馬鹿者。」

「ならもっといいの飲ませてやろうか?白いヤツ。」

「・・・・下品な。断る。」

「おや太夫、どっちが下品ですか?」

ニヤリ、と銀時が笑い、月詠の頬に何か冷たいものが触れた。

手を伸ばして取ると、それはペットボトル。中に水を入れて凍らせていたのか、触れると痛いほど冷たい。



「ちょっと前、冷凍庫から出しておいた。可流日酢(かるぴす)。」

「・・・・。」

してやられた気分になりつつ、月詠は黙って起き上りペットボトルを開けた。口をつけると溶けたばかりの冷たい甘い水が喉を潤す。熱に支配された体が、少しだけ冷えた気がした。

思わずごくごく、と一気に飲むと唇の端からこぼれた液体が一筋流れた。銀時の指が伸びてそれをぬぐい、ぺろりと舐める。なんだかその仕草にまで興奮を覚えてしまうのはこの熱のせいか。



「甘すぎる。」

「んじゃ、返せ。」

「嫌じゃ。」

ペットボトルを抱え横を向く。ごくごくと液体を飲んでいると、後ろから銀時の腕が巻きついてきた。

ぎゅう、と体を抱きしめられる。銀時の熱が、月詠の体に伝わる。少し冷えた体に心地よい。



「な、さっき何の事だと思った?」

「・・・。」

「やーらしいの、太夫。」

「うるさい。」

「俺にもちょーだい。」



横から手が伸びて来る。その手から逃れて更に可流日酢を飲むと、月詠は銀時の方へ向き直った。

そのまま銀時の頬に手を伸ばし、口づけをする。開いた唇の間から甘い液体を直接口の中に流し込むと、銀時の腕が月詠の頬を捉えた。

互いに甘い口の中を舌で味わう。味わい尽くして唇を離すと、唇がカラカラに乾いていた。



「美味かった。」

「・・・やはり、甘すぎじゃ。」

「暑ぃ、もっとよこせ。」



今度は素直にペットボトルを渡すと、銀時はそれを一気に飲み干した。液体を飲み下す度に銀時の喉が動くのを月詠はじっと見つめながら、そこに触れたいと強く思った。



「銀時。」

「なに?」

「暑いのも、悪くない。」

「そう?どうせならクーラーガンガン効いてる方が俺ァいいけど。」



銀時の指が、月詠の下腹部に触れる。敏感な部分に触れられ、既に潤っていたそこが更に熱くなった。

甘い息と共に身をよじると、後ろから耳を舐められる。熱い舌の与える快楽と共に、銀時の声が耳元に響いた。



「確かに暑い中で熱くなるのも、悪くねぇな。」



それには答える事なく、月詠はただ甘い息を吐く。

銀時の腕が、月詠を布団の上にゆっくりと押し倒す。やはり熱いのも悪くない、そう思いながら月詠は銀時の喉をそっと撫でた。





◎室内でも、熱中症には注意しましょう、という話(違)

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