銀月(後)2

□今日と言う日が終わる、その前に
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「ハッピーバースデー銀さ〜ん。ハッピバースデー銀さ〜ん。」



10月10日夜8時。スナックお登勢の二階、『万事屋銀ちゃん』ではオーナー店主、坂田銀時の誕生日を祝う会が開かれていた。

狭いテーブルの上には、近所の「かぶき町スーパー」で買ったお惣菜が並べられてあり、それらの中央には大きなバースデーケーキが置かれている。その上には「俺はまだ10代だ」と言い張る銀時の為に、大きなローソクが一本、その上に立てられていた。



「おい、お前の下手な歌はもうイイから、さっさとケーキ食べるアル。」

「なに言ってんの神楽ちゃん、こう言うイベントはね、ちゃんと段階踏まないと。ほら、じゃあ火つけますよ〜。」

「ああもういいよそういうの。さっさと食おうぜ。」

「あああああもう!銀さんまで!!」



新八が叫びながらどん!と拳をテーブルに叩きつける。グラスがぐらりと揺れる程の衝撃を意に介する風も無く、銀時が右の小指で鼻の穴をつついた。



「男はな、誕生日パーチーなんて小学生の時に卒業するモンなんだよ。

それにな、誕生日っつったって別に俺年取る訳じゃないしぃ?銀さん永遠の17歳だから関係ないしぃ?奮発して豪勢なケーキ買ったんだからそれさっさと食おうぜ。」

「あああああもうホント夢の無い男ですね、アンタは!!!」

「仕方無いアル。銀ちゃんツッキーにフラれてやさぐれてるネ。せめて美味いモンでも食うアル。」



銀時の隣に座った神楽が、お先に・・・とテーブルの上の料理に手を伸ばした。その手をパチン、と叩いて銀時がその顔を睨みつける。

べぇ、とその顔に向かって神楽があかんべぇを返した。頭の後ろで腕を組みソファにふんぞり返る。



「まあせっかくの誕生日に彼女に仕事優先されてさみしいのはわかるけど、ツッキーも色々大変アル。ここで文句を言わず笑顔で『頑張れ』って言うのがいい男ネ。」

「もしもし神楽ちゃん、銀さん既にスゲーいい男ですから君にいちいち教えを請う必要ないんですが。まああの女がいっつも仕事仕事の仕事人間なのは当の昔に分かってたし約束のドタキャンは日常茶飯事だし、銀さん別にショックなんて受けてないしー。」

「そうですね、どうせ今日も仕事の依頼なんて入っていませんでしたし毎日予定はフリーですから、僕達。」

「・・・・新八君、なんか言い方に棘があるんですけど、なんか不機嫌なんですけどどーしたんですか。」

「気にするなヨ。どうせ『彼女にフラれたからって、もともと彼女いない歴16年でしかも昨日ラブプラスの何とかちゃん怒らせて昨日からずっと口聞いてくれなくて、しかも最近きららちゃんからの手紙も途絶え気味の僕よりずっとリア充じゃないですか爆発しろこの野郎』とでも思ってるだけネ。」

「エスパーか!?お前エスパーかああああああ!!??」

「新八の思考回路なんて、幼稚園児向けの迷路並みに単純ネ。」

「悪かったなぁああああああああ!!!」



ギャイギャイ喧嘩を始めた新八を神楽を他所に、銀時はフォークを手に、目の前にあるケーキをずぶり、と刺した。

大きくそれを切り取り口に入れる。それを見たふたりが「ずるい!」と叫んでケーキに食らいついた。



それを横目で見ながら、銀時は手元にあった缶ビールを手にする。大きく一口飲むと、甘いケーキの味と苦いビールの味が混ざってなんとも微妙な味となった。



本来であれば、この場に月詠が来るはずだった。銀時の誕生日を一緒に祝おうと神楽が誘ったらしい。

数日前には、休みを取って行く、と言っていた。

最近仕事が忙しいらしくあまり会う機会も無い。体を休めて欲しい意味もあって、銀時は月詠に「ちゃんと来いよ」と言っていた。



だが今日の昼過ぎ、急に行けなくなった、との連絡が入った。百華のひとりが怪我をして急遽代わりに見回りをする事になったらしい。

「ふざくんなテメェそんなオーバーワークしてブッ倒れてもしんねぇぞコラァ!!!!」と叫びたい所を、銀時はぐっと抑えて「わかった」とだけ答えた。電話を切った後の、新八と神楽の視線が哀れみに満ちていたのには怒りまくったが。





そんなこんなで、あいも変わらず3人で誕生日を祝う事になったのである。

こうして自分の事を祝ってくれる人間がいるだけで十分ありがたいとは思うのだが、本来この場にいるはずの「あいつ」がいないのは、やはり少しだけ、さみしい。

何より、自分の誕生日を口実に少しは休ませようと思っていたのだ。理由が無いとなかなか休まないあの女も、少しは骨休みになるだろうに。



「銀ちゃん、こう言うときは泣いてもいいアル。ほら、飲むネ。」

気がつくと神楽がグラスにビールを注いでいた。

「神楽ちゃん、君いつからそんな事できるようになったんですか。お妙にでも教えてもらったんですか?」

「・・・フッ。銀ちゃん、女はいつの間にか大人になるアルネ。」

「・・・・そうか・・・・・・・・・って騙されるかァァァ!!俺がビール飲んでる間にそのケーキ全部食うつもりだろうがァァァァ!!!」



叫ぶと、銀時はケーキに伸びていた神楽の手をぐっと掴もうとした。さっと避けた神楽がケーキを手に取る。

「やるか!」

「やるネ!!」

「ちょ!銀さん!神楽ちゃん!!」



そして万事屋ではいつものように階下のお登勢から苦情が来るまで、賑やかな喧嘩が始まった。
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