長編2
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たい焼き屋で月詠さんと出会ってから1週間が過ぎた。
その間、僕はいつものように真選組としての役目に走り回る日々だった。
けれど、その合間にふと、彼女の事を思い出しては少しだけ胸を痛ませた。
吉原に行けば彼女に会えるのだろうけれど、会っても仕方の無い事。
月詠さんは、万事屋の旦那の恋人なのだから。
そして、2人の仲むつまじい姿を思い出しては、また胸を痛めた。
だけど、彼女と僕の接点なんてほとんど無いし、このまま会わなければ思い出になって消えて行くだろう、そう思ってもいた。
そんな僕の思いとは裏腹に、事件は起こった。
*********
それは、僕がいつものように町の見回りに行った時の事。
「山崎殿。先日は世話になりんした。」
途中の茶屋で休憩していると、凛とした声が聞こえた。
この声は・・・。
顔をあげると、やはり月詠さん。
顔を見た途端、僕はまたドキドキしてしまった。
「つ、月詠さん、い、いえ、先日は僕もご馳走になって・・・。」
「今日も仕事でありんすか。大変だな。」
「いえ、僕は・・月詠さんは旦那の所へ?」
「ああ、今日は仕事の用事もあってな。」
「あ、ここのお団子美味しいんですよ。一緒にどうですか?」
な、何言ってんの?僕は??
口から出てきた言葉が自分でも信じられなかった。
彼女は少し迷った風だったが
「では、わっちもご一緒させていただく」
と言うと、僕の隣に座った。
うわ。
すぐ近くに座ると、彼女からは煙草とお香の混ざった、けれど嫌味でない香りがする。
同じ煙草の匂いでも、土方さんのとは大違いだ。
そう思っていると、月詠さんは届いたお団子を一口食べて
「そうだな、とても美味でありんす。」
そう言って、少し微笑んだ。
これだけでも僕は幸せになってしまった。
そんな自分が哀しいくらい。