銀月(後)2

□早起きは愛のあかし。
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夜明けの気配がまだ見えない、冬の早朝。
窓の外を見ると、通りには雪が積もっていた。

外の様子を確認すると、月詠は未だ布団の中で寝ている銀時に声をかけた。

「銀時、起きなんし。」

寝ぼけ眼で時計を確認した銀時が言う。

「・・まだ、いつもより、早ぇぞ。」

「雪じゃ。帰るのに時間がかかるから、早めに出た方が良い。」

「そだな・・んじゃ。」

銀時が、もそもそと寝床から起きて服を着る。

急がぬと間に合わぬぞ、と月詠が言うと、別に間に合わなくても構やしねぇ、と銀時は言った。

嘘つきじゃな。

そう言ったら、この男は照れ隠しに怒るのだろう。

なので、その言葉を月詠は飲み込んだ。


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銀時は、月詠との逢瀬を過ごしても、いつも朝には帰る。

それは未成年の少女を預かっている保護者として、せめて朝食までには戻ろう、という意図があるようだ。

そういう点では、銀時は妙に律義な処があり、月詠は面白く、好ましく思っている。

しかし、夏の終わりのある日から、銀時はそれまでよりずっと早く、早朝に帰るようになった。

どうやら、神楽のラジオ体操に付き合っているらしい。

「俺は大迷惑なんだけどな。」

と口では言っているが、実は神楽の為に自分で始めた事を、新八からこっそり聞いている。

夏が終わり、秋が終わり、冬になっても変わらず、まだ夜も明けぬ頃に帰る。

月詠も、いつも決まった時間に銀時を起こし、送り出す。


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「んじゃ、またな。」

身支度を終えると、そう言って銀時はのんびりと部屋を出て行った。

窓を開けて見送ると、通りを歩く銀時がこちらを振り向く。

軽く手をあげると、向こうも手をあげた。

今はのんびり歩いているが、通りを曲がったら大急ぎで帰るに違いない。

神楽のラジオ体操の為に。


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時々思う。

もし「帰らないで欲しい」と自分が言ったら、あの男はどうするだろう。

困った顔をして、何やかんやと言った挙句、結局かぶき町に帰るに違いない。

そういう男だから、あの男は。

そして、そういう男だから、自分が惚れたのだろう。

自分が逆の立場でも、そうするだろう。

自分達は、そういう人間なのだから。




しかし・・・




「やはり、少し妬けるのう」




わっちもまだまだじゃな。

そんな自分に、キセルを加えながら、月詠は苦笑した。




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