銀月(後)2
□夏の夜は幻
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今日は大江戸花火大会。
江戸の海上で大きな花火があがる、という事で江戸中の人々が花火スポットである海岸に集まっていた。
「人ごみは好かぬ」という月詠ではあったが、「人の少ないスポット知ってるから」という銀時の言葉と、やはり一度は花火を見てみたい、という想いに背を押され、こうして二人、連れ立って花火大会へとくり出していた。
「こういうのも良いだろ。」
「そうじゃな。」
祭りというものは、何故か人の心を浮き立たせる。
それは暗い夜道を照らす提灯の明かりのせいか、それとも道を歩く人々のざわめきのせいか。
地上とは違う、所謂「夢」の世界である吉原の住人である月詠ではあるが、こうして祭りと言う非日常の風景の中に入ってみると、それはそれで心が騒ぐようである。
紺の浴衣をまとった月詠の笑みに、隣に立っている銀時の顔も嬉しそうに緩んでいた。
「しかし・・・夜じゃと言うのに、暑いのう。」
ぱたぱたと団扇で扇ぎながら、月詠がうなった。
何しろ連日熱帯夜宣言が出されている時期だ。人々の熱気にも当てられ、月詠の白い肌にも玉粒の汗がにじんでいた。
「んじゃ、カキ氷でも食うか。」
銀時が屋台へ顎を向ける。そんな甘ったるいもの・・と月詠が言うより先に、銀時は既に屋台に向っていた。
この暑さで冷たいものが人気なのか、何人か人が並んでいて順番が来るまで少し時間がかかるようだ。
やれやれ、と月詠が息を吐く。
仕方ない、銀時が戻るまで一服するか。そう思い懐からキセルを取り出した。
道の端に寄り、火をつける。煙を吸い、ふう、と吐き出した。
「悪ぃが、此処は禁煙だ。」
後ろから声をかけられた。
振り返ると
「土方殿。」
「・・ったく、俺もこんな事言いたくねぇけどさ。この会場は喫煙所以外基本、禁煙なんだとさ。」
暑さ故かそれとも禁煙措置のせいか、不機嫌な顔の土方がそこにいた。