銀月(後)2
□計画は倒れてナンボ
2ページ/2ページ
*10月3日*
「どうした?銀時。カタログなど見て。」
「あ?いや・・別に。」
俺はカタログをさっと机の端に隠した。
怪訝な顔をする月詠を見て、ほくそ笑む。
そう、この俺の態度を見て、月詠は怪しむだろう。そして、カタログを後でこっそり見るだろう。
そこには1箇所折り目がある。そこを開くと、メイド服の通販ページがあるはずだ。
「悪ぃ、ババァに話があるから、ちょっと待っててくれ。」
うなずく月詠を事務所に残し、俺は万事屋を出た。
「・・・今金欠だからなぁ。」
ドアから出る時。月詠にかすかに聞こえる程度の小声で俺は呟いた。
そう、あいつなら理解するはず。
メイド服を買いたいけど、金が無くて買えない俺の現状を。
そして空気を読むあいつなら思うはず。もうすぐ俺の誕生日だと。
俺の勝利だ。
階段を降りながら、俺は顔が緩むのを隠すのに必死だった。
*10月10日*
この日は休みを取るよう、事前に月詠に言い聞かせ、日輪に根回しまでした。
そのおかげで今日は一日、あいつはフリ―だ。そして当然のごとく、俺と会う約束をしている。
神楽は新八と一緒に「大江戸遊園地」へと追い払った。バイト中の長谷川さんからもぎ取ったタダ券のおかげだ。
そして、あいつはもうすぐ来る。
空気を読んだあいつはきっと、メイド服を注文するだろう。
そして羞恥に頬を染めながら、「似あうか?」など不安げに聞いて来るだろう。
俺は優しく「最高だぜ」と微笑めばいい。
そして後は甘いケーキのような一日を過ごせばいい。
完璧だ。
俺が一人ニヤけていると、ピンポンと音がした。
扉を開けると、そこには月詠の姿。心なしか態度がぎこちない。
俺は確信した。この女の右手にある大きな袋。これは・・・衣装だ。
「待たせたな。」
「良いって。中入れよ。」
朝気合いを入れ掃除したおかげで、ぴかぴかになった家の中へ月詠を通す。
「銀時・・誕生日、おめでとう。」
頬を赤く染めて、月詠が言った。
「あの・・ぬしが何を喜ぶか分からなかった故・・申し訳ないが先日コッソリぬしの持っておった雑誌を見て・・な。
あの・・わっちもこういうのは慣れぬ故、上手くできないが・・少しでもぬしが喜べば・・と思って。」
もじもじするコイツの顔を見ながら、俺は抱きしめたい衝動を必死で押さえた。そして何も分からない、という顔を必死で作る。
「何の事だ?」
「ぬしが・・こういうのが好きならば、わっちも・・努力しよう。」
ゴソゴソと袋の中を探る。
そう、中からはメイド服が出る
・・・はずだった。
「え?」
出て来たのは・・・鞭と拘束具???
「ぬしはSじゃSじゃと言うから、今まで気づかなんだ・・すまなかった。」
言うと呆然とする俺の手を月詠は掴み、あれよあれよと言う間に体中をゴム製の拘束具で縛った。
「使い方は・・・専門の者に一応聞いたから上手くできるはずじゃ。」
「ちょ・・ちょっと待て、月詠!!」
「銀時・・・恥ずかしがらぬとも、良い。」
月詠がビシリ、と鞭を引いた。
「わっちも、覚悟を決めた。」
「待てぇぇぇぇぇぇ!!!!」
*****
その時風が吹いて、銀時の机の上のカタログのページをぱらぱらとめくった。
銀時お目当てのメイド服のページが現れる。
そしてそれがめくれ・・・
先程のページの裏側には、「SMプレイ用品(男性M専用)」のページがあった。
終