3Z&パラレル

□月の裏側
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「休憩」と銀時は更に山積みにされていた団子を頬張る。

隣を見ると、神楽も既に団子を口に入れ、美味しそうな笑顔を浮かべていた。


「お前さぁ・・・城なんかにいて、そんなストレス溜めて、家帰りてぇと思わねぇのか?」


銀時にとっては想像する事しか出来ない「城」という世界であるが、今まで聞いた話から行くと相当窮屈な場所らしい。

奔放でパワーに溢れたこの少女にそんな場所はどう考えても似合わなかった。





銀時の問いに、神楽は団子を食べる手を止め、下を向いた。


「思うアル。」

「・・・。」

「でも、私、やりたい事がやらなきゃいけない事がアルネ。それを途中で放り投げたくないアル。」

「・・・そっか。悪ぃな、余計な事言って。」

「構わないアル。自分で決めた事ネ。」

「自分で決めた・・ね。」


ふ、と同じ台詞を聞いた事を思い出す。





人知れず歯を食いしばって『死神』としての役目を果たす女に、何で番人なんてしてるんだ、と聞いた事があった。


『わっちにはやらねばならぬ事がある。』

『自分で決めた事じゃ。だから悔いなど無い。』


その時の迷いの無い顔とまっすぐな瞳。

思えばその瞳に惹かれたのかもしれない。湯飲みを手に、銀時は隣で団子を頬張る少女の横顔を眺める。




女が弱くて儚くて、でもしたたかで強いなんて誰が言った。

あの女も、この少女も、狭い檻の中でも自分でやるべき事、やりたい事を見つけ、道をまっすぐに歩いている。

目の前に大きな壁があると分かっていても、その道筋を変える事なく、自分の信じる道をまっすぐに進もうとしている。

不器用なまでのその一途さに、銀時は憧れすら覚える。


ふらりふらりと風に吹かれるまま流される自分などとは大違いだ。





「銀ちゃん・・・・」


神楽が、後ろ向きに体を倒し、ドスン、と畳の上に寝転がった。

まっすぐな瞳でじっと天上を見つめ、ぎゅ、と拳を握る。


「私、やらなきゃいけない事がアルネ。絶対やり遂げるって決めたネ・・・・・・・なのに、最近私おかしいアル。」


豪胆な彼女には似つかわしくないくらい、弱弱しい声が部屋に響いた。

泣いているのか?と銀時がその顔を覗き込む。

予想に反して涙は見せていなかったが、その瞳が月の光に照らされてゆらゆらと揺れていた。


「どーした?」

「凄く嫌なヤツがいるアル。凄く腹が立つヤツネ。でも、そいつと会うと時々頭がパーンとなるネ。自分がしなきゃならない事、全部放り投げてパーンしたくなるアル。」

「・・・パーン、ね。」

「パーンしてる暇なんて無いのに。そんな場合じゃないのに、パーンしたくなるアル。」

「・・そりゃ、大変だ。」


そっか、パーンか。そう思いながら、銀時もごろん、と畳の上に仰向けに寝転がる。




そっか、俺もあん時、頭パーンってなってたんだな。

あいつも少しは頭パーンしてくれたのだろうか。





神楽と二人で寝転ぶと、窓の外に月が見えた。


「銀ちゃんもあるか?頭パーンってなる事。」

「あるな、頭パーンと。」

「そっか・・・。」


神楽が、手を挙げ窓の外を指差した。


「あのお月様の裏側。あそに逃げたら、きっと誰にも見つからないアルネ。」

「いいな、きっと見つからねぇ。」

「でも・・・・。」


隣をそっと見る。神楽が、唇をかみ締めて涙をこらえるような顔をしていた。



「私逃げないアル。頭パーンしても、行かないアル。決めたから、もう。」

「・・・そっか。」

「そいつも多分、逃げたりしないアル。そういう奴アル。」

「・・・そっか。」


天に向かって伸びた神楽の指の先を、銀時はじっと見つめていた。

細い少女の指先には、薄く輝く月の光。




あいつも。

月の裏側へ逃げたいと思う事があるのだろうか。




もしそう思ったとしても、でも、多分あいつが逃げる事は無いだろう。

あいつもまた、「やるべき事」から逃げる事は無いだろう。

そういう女だ。




だから自分は・・・・・多分、好きになった。





「辛ぇなぁ。」




ひとつため息をつくと、銀時は寝転んだまま団子をひとつ頬ばった。





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