長編1
□きみがペット?1章
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【1】俺、お前のペットだから
***
「ふう・・・もうこんな時間か。」
午後10時。
「YOSHIHARA」のオフィスに一人残っていた月詠は、そろそろ施錠の時刻だと気づいた。
事務所の入っているビルは、基本的にこの時間には施錠をする。
それ以降の残業も可ではあるが、良い顔をされない。
そろそろ警備員が注意に来る頃だろう。その前に退散するか、と月詠は机の上の書類をまとめた。
まだ仕事は残っているが、残りは家でするしかない。
手元のノートパソコンの電源を落として、鞄に入れる。
施錠を確認して事務所を出ると、丁度回ってきた警備員に「毎日遅くまで頑張ってるね。若いのに。」と声をかけられた。
軽く会釈して、エレベータに乗りこむ。
扉が閉まると、月詠はほう、と息を吐いた。
月詠が働く、株式会社「YOSHIHARA」は、幼馴染であり友人でもある日輪が立ちあげた会社である。
シングルマザーでもある彼女は息子の為にオリジナルの子供服を作り、それが友人の間で評判となり、販売を行うようになった。
その評判が更に広がった頃、日輪はオリジナルの服を販売する為の会社を作った。
もともと、頭の良い人間である。
ネット販売などを上手く活用し。従業員数人の小さな会社ではあるが、それなりに業績を伸ばしている。
「月詠、私と一緒にやらない?」
短大に通っていた時日輪に誘われた月詠は、日輪の頼みならと、この会社に入った。
そして、営業兼人事兼経理兼総務という、名刺に書ききれない程の仕事をこなす、会社の要と現在はなっている。
「月詠ったら、頑張りすぎなのよ。」
仕事は山のようにこなす割に、日輪はいつも笑顔で余裕があるように見える。
それに比べて、自分はいつも急かされているようで落ち着かない。
あのように器用になれたら・・・そう思っていると、チン、と音が鳴りエレベーターが開いた。
「今日は・・・最悪だったな。」
周りに誰もいない事を確認して、月詠は呟いた。