長編1

□きみがペット?1章
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ことの発端は向こうのミスだった。

FAXされた書類にある通りに、商品をそろえ、連絡をした。

「数が違う。」

苦い顔をしたのは向こうの担当者。

発注書の通りに揃えたと主張したら

「ああ、事務の子が書き間違えたんだね。でもさぁ、いつもと一ケタ数が違うんだから、オタクも確認してよね。」

サングラスを直しながら担当者は言った。

「まあ、人間だれしも間違いはあるから、今回は大目に見て本来の発注分だけは引き取るからさ。今度からはちゃんとしてくれよ。」

居高気に去っていく担当者に向かって、コーヒーカップを投げつけたい気持ちを必死に抑え、月詠は「分かりました」と答えた。

「私のせいです。」と泣く事務の子を慰めたが、余った商品を引き取ってくれる所を探さなくてはならない。

方々に電話をかけ、何とか商品をさばいては行ったが、まだ在庫は大量に残っている。

明日から、どうするか・・・・。

大きくため息をつく。

ビルを出ると、鞄から名刺入れを取り出す。




『株式会社 マダオ
 営業一課 長谷川泰三』



憎々しいサングラスの親父顔を思い出し、月詠はその名刺を粉々に引き裂いた。

そして、散らばった紙の先に、コンビニの光を見つける。


「酒でも・・・飲んでみようか。」


下戸である月詠は、ついでに酒乱でもある。

昔一度飲んで大暴れし、周りに散々迷惑をかけた経験から、現在では一滴も酒を飲まないようにしていた。

だが、あれは数年前。

今は少しは違うだろう。

コンビニに入ると、「発泡酒」と書かれた商品を手に取った。

以前「ビールを軽くしたもの」と聞いた覚えがる。

これならアルコール度も低いだろうし、大して酔わないだろう。



レジで清算をすますと、近くの公園へ行く。

行儀が悪いと思いつつ、ベンチに座るとビールの缶を開けて、一口飲んだ。



「・・・・ヒック。」



何故だろう。目の前の世界が・・・・


揺らめいた。
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