長編1

□きみがペット?1章
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「ねぇねぇねぇ。」

段ボールをのぞきこんでくる月詠を青年はジロリとにらんだ。

しかし、すっかり酔っている月詠にはそれは全く効かず。

それどころか、青年に向けて月詠は身を乗り出して来た。

「ぬしは、腹が減らぬか?」

「んぁ?」

「わっちは今、酒が飲みたい気分なんじゃ。ぬしも付き合え。」

「・・・そりゃ、腹減ってる、けどさ。」

「よーし、なら、今金を渡すから、そこのコンビニで適当に何か買って来い。」

月詠は財布を開けると、1万円札を差し出した。

「オイ、姉ちゃん、不用心な・・・」

「良いから、行け。」

恐ろしい形相でにらまれ、青年が「・・ハイ」と答える。




駆け出した青年の背を見送ると、月詠は空を見上げた。

星が瞬く夜空。美しく光る月。

同じ名を持った自分と違い、誰にも頼る事なく、一人美しく輝く月を、月詠はぼんやりと眺めていた。




数分もすると青年が戻って来た。

コンビニの袋を開けると、缶ビールとつまみのほかに、弁当が2個入っていた。

青年は弁当を開けると、一気にそれをかきこむ。

「悪ぃ。俺マジで腹減ってるから、あんがとよ、姉ちゃん。」

「何じゃぬし、飯を食っておらぬのか?」

「まあな、昨日から水だけだったし。」

「まるで野良犬じゃな。」

「まあ、似たようなモンだな。」

答えながら弁当をかきこむ青年を、月詠はじっと見つめていた。

銀色のくしゃくしゃの髪。瞳の色。やる気のない姿。そして、上手そうに飯を食べる姿。
何かを思い出す。




ああ、そうか。




「ギン。」

「は?」

「ぬし・・ギンに似ておるのぉ。」

「誰だ?それは??」

「わっちの飼ってたネコじゃ。」

「猫?」

「子供の頃飼ってたのじゃが・・拾い食いしたものに当たって死んでのぉ・・」

「オイオイ、辞めてくれ、縁起でもねぇ。」

「ギン・・・」

「オイ、今度は泣き上戸かよ。勘弁してくれ。」

シクシク泣いていた月詠はしかし、次の瞬間顔をあげると、ぐわし!と青年の方へ迫った。

喉に飯を詰まらせて目を白黒させる青年に向かって、目を輝かせて言った。




「ぬし、わっちの家に来るでありんす。わっちが飼ってやろう?」

「ハ?」

「わっちのマンションはペット可じゃ。猫一匹くらい、飼っても大丈夫じゃ。」

「いや・・そうじゃなくて、オイ、姉ちゃん、目覚まして・・・」

「家に来れば、飯はちゃんと食えるぞ。」

「う。」

青年は、相当腹がすいていたのか、月詠の言葉に少し考える姿勢を見せた。





「と・・とりあえず、金がたまるまで、な。」

「何を言うておる。生き物は最後まで看取るのが飼い主の勤めじゃ。」

乾杯ーー!

月詠が、隣にあったノンアルコールビールのプルタブを開けた。




「しらねぇぞ・・・」



自分の方はしっかりビールを飲みながら、青年が呟いた。
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