長編2

□ボクと悪魔の七日間
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【1】


その日、銀時は一人夕暮れ道を歩いていた。

まだ幼い子供が一人で歩いている姿に、通りかかる人が時折心配そうに振り返る。

だが、それを気にする余裕もなく、銀時は下を向いてとぼとぼと歩いていた。




施設近くの川土手の道。

そこに広がるのは毎日見る風景。

黙って出て来たから、今頃先生達は自分を探しているかもしれない。

だけど、もうすぐ、ここを歩けなくなるかもしれないと思うと、銀時は帰る気になれなかった。

土手道の端に座り込み、川を眺める。




『松陽先生、手術難しいんですって』

『先生がいなくなったら、ここどうなるの?』



昨晩こっそり聞いた、先生達の言葉を思い出す。

銀時の暮らす児童養護施設の園長である松陽が入院したのは先月の話。

その松陽の具合が良くないらしい。

いつも赤字経営である施設は、松陽の力によって何とか維持している、と言っても過言ではない。

松陽がいなくなれば、経営状態の苦しいこの施設は無くなってしまうだろう。先生たちはそう話していた。

難しい話は銀時には分からなかったが、大好きな先生と自分の家でもある施設が無くなってしまうかもしれない。それは銀時から居場所を奪うに等しかった。

だが、松陽の病気を治す力も、施設を維持するだけの経済力も、子供である銀時には無かった。

知らず知らず、涙がこぼれる。

「誰でも良い・・・神様でも悪魔でも良いから、助けてよ。」

こぼれる涙を拭きながら、銀時は呟いた。



ふと、気がつくと辺りが暗くなっていた。




まだそんな時間じゃないはず・・?不思議に思いながら川の方を見ると、ぼんやりと光が見える。

「・・・?」

光りに誘われるように土手を降りると、銀時は深い草に覆われた川岸へ近づいた。

自分の背丈ほどの草をかき分けながら前へ進む。

草の向こうに、人影があった。





「・・・ぬしか?わっちを呼んだのは。」





ほのかに光を放つその人物が、こちらを向いた。

光が薄くなる。黒い服を着た、金色の髪の女性がそこにいた。




お姉さん、誰・・・?




その質問を放つ前に、銀時の意識はそこで途切れた。
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