3Z&パラレル

□つめたい夜に
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空を見上げると、雲の隙間から月が覗いていた。わずかな光を見せると、しかしまた月は雲に覆い隠される。そして辺りは再び暗闇に包まれた。


そう言えば、この街に来てこんなに暗い夜は初めてだな。月詠は思った。

この街に来るまでは--師と修行をしていた頃は--夜は、まさに闇だった。
しかし、そのおかげで月詠は真っ暗な闇の中でも昼間と同じ様に動く事が出来る。もちろん、闇を恐れる事もない。


けれど---この街に「夜」など無い。いつも明かりが街を照らし、わずかな隙間に闇が集まるだけ。



初めてこの街を見た時には、月詠は目が瞑れるかと思った。あまりに明るくて、あまりに輝いていて。
それまでは師と人里離れた所で修行をしていたから、これが同じ街か、と驚いた覚えがある。

だが、師は言った。光の影には闇があると。この街の光が強ければ強いほど、闇もまた、強くある、と。



あれから数年。師は、自分の代わりにこの街を護るよう言い残して消えた。
そして自分は、師の言葉に従い、この街を護っている。自分なりのやり方で。

「強くなりたいのなら、己を捨てよ。己の女を捨てねば、誰かを護る事など出来ぬ。」

弟子となりたい、と願った時に師が言った言葉。覚悟はあるか?その言葉を思い出す。

己は、強くなりたい、と思った。
いつか姉に会う為に。この世界で強く生きたい、と。
そして大切な人を護れるくらい強くなりたい、と。



今の自分は---果たして。



歩きながら思考に囚われていた事に気付いて、月詠は頭を軽く振った。

やはり風の強い日はいけない。酷く心が騒ぐ。




その時、ガタン、と扉が開く音がした。
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