銀月(後)2

□今日と言う日が終わる、その前に
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***





外に人の気配がして、銀時はふと目を覚ました。

部屋はすっかり暗くなっている。時計を見ると11:50をさしていた。



グーー

スカーーー

スピーーーー。



食べカスや食器が散らかった部屋の中で、新八と神楽はいびきをかいて眠っている。銀時は玄関の外にある気配を伺った。

そこにある気配はお登勢ともキャサリンともたまとも違う。何やら中を伺うような、そんな気配。

誰だ。ヅラとも違う。

もしや・・・

銀時は洞爺湖を手に取ると、そっと玄関へと近づいた。気配を完全に消し、そっと扉に手をかける。

外にある気配が、何か荷物を床に置いた。



その瞬間。





ガタン、と銀時は一気に扉を開けた。洞爺湖を構え、廊下へと飛び出す。



誰だ・・・!そう言おうとして、銀時は声を飲み込んだ。廊下の先に立っていたのは月詠。一瞬にして玄関から階段の辺りまで飛び退いたのはさすがと言うべきか。



「ぎ・・銀時。」

「なにしてんの?お前。」

「す・・・すまぬ。起こしてしまったのか?」

「いや〜別にちょうど目覚ましただけだし。仕事終わったのか?」

「いや、ちょっと荷物だけ届けに来ただけじゃ。ここに置いたらすぐ帰るつもりじゃった。またすぐ戻らねばならぬのでな。」

「荷物?」



銀時は玄関の方を振り向いた。扉の辺に大きな袋を置いてある。



「俺に?」

そう言うと月詠はこくん、と頷いた。こちらに歩みよると、袋を手に取る。



「その・・・前からちゃんと用意しておればよかったのじゃがすまぬ・・なかなか買い物行く暇がなくて・・それで先程ここに来る前に買おうと思っていたのじゃが、吉原の店はちょっとアレなものしか売っておらぬし、それで・・」



最後の方は口の中でつぶやくように言いながら、月詠はぐい、と袋を銀時の前に突き出した。



「つまりアレじゃ、ぬしへのプレゼントじゃ!!」

「あ、どーも。ありがと。」



思わず普通に礼を言う受け取ると、月詠はぷい、と横を向き煙管を口にした。

なに照れてるんだか、そう思いながら銀時は袋の中を覗く。そこには袋いっぱいにチョコやら飴やらクッキーやらが詰められていた。



「その、地上の店はコンビニくらいしか開いておらんで、それでも・・・・その、一応今日中に何か渡したくて・・・すまぬ、つまらぬ物で。」

横を向いたまま、スパスパと煙管を吸う月詠の頬が、かすかに赤く染まっているのに銀時は気がついた。

ニヤリ、と笑みが浮かぶ。こうなるとちょっといじめたくなるのが男心と言うものだ。



「へぇ、つまりこう言う事だ。死神太夫様はお忙しい中、わざわざ俺の誕生日に間にあうようにと仕事を抜けて大急ぎで地上まであがって来てくれた訳だ。」

「ば、馬鹿者!吉原の代表として、礼儀を欠かしたくないだけじゃ!!」

「代表なの?」

「・・・ぬ。」

「お前個人の気持ちってのは?」

「・・・・・。」



からかうように笑いながら月詠に詰め寄る。じりじりと後退した体が欄干に当たると、銀時はその手を捕まえた。



「うーそ。サンキュ。」

「・・・・。」

「じゃあ、お礼のちゅーでも・・・。」

「ば、馬鹿者が、これでも食べておれ!」



月詠の手を取りそのまま抱き寄せようとした銀時の口に、何やら甘いものが押し込められた。



「ではな!」

一言言うと、月詠はそのままひらり、と翻り階段をそっと、しかし足早に駆け下りて行った。そして表の通りに出ると、銀時に向かって軽く手を振る。

月明かりに照らされたその姿に軽く手を振り返すと、月詠はそのまま通りを駆けて行く。



その姿はすぐに見えなくなり、誰もいない通りには月の明かりだけが残った。

夜の街はとても静かで、階下のスナックから漏れる笑い声だけが響くだけ。そこに月詠の気配は残っていない。



夢でも見てたみたいだ。そう思いながら銀時は口に手を当てる。そこには甘い香りが広がり、先程までの出来事が夢ではなかったのだ、と教えてくれた。



部屋の中からボーンボーン、と12時を知らせる時計の音が聞こえた。10月10日はどうやら終わったらしい。

どうやら本当に、日が変わる前にと急いでいたらしい。でなければ、礼儀を重んじるあの女が、神楽の眠っている時間に家を訪ねるとは思えない。



「・・・・・・・かーわいいでやんの。」



袋の中からもう1つチョコを取り出すと、銀時は口に入れた。

甘い味が口中に広がる。月詠はどんな顔して大量の菓子を買ったのだろう、そう思うと知らず知らず笑みがこぼれた。

「この借りは、まあ次会った時にゆっくり返しますか。」

唇の端についたチョコをぺろり、と舌で舐め取ると、銀時は大あくびをひとつして部屋へと戻った。






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