長編1

□ぬしに届け
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【出会い】






『4月6日

今日から高校生。とても緊張している。

高校に入ったら、少しはクラスになじめるだろうか。頑張ろうと思う。』





***



「月詠〜時間よ。」

階下から日輪の声が聞こえて、月詠は日記帳を閉じた。ペンと共に机に仕舞うと、鞄を手に取る。

「準備できた?」

階段を下りて玄関まで来ると日輪がキッチンから顔を出した。

鞄を手に、月詠は玄関にかけてある鏡を見る。制服のリボンが曲がっていないか、確認し、髪の乱れを少し直す。

「道は大丈夫?迷わないかい?」

「大丈夫じゃ。子供では無い。」

それでも少し心配そうな日輪に微笑みかけると、月詠は玄関のドアを開けた。



今日から、高校生。新しい学校。新しい生活。

今年こそは・・・・・・・・・。



「行って来ます。」

「行ってらっしゃい。」

日輪の声を背に、月詠は外へと一歩を踏み出した。





***





「よぉ、銀さん。」

長谷川の声に、銀時は後ろを振り向いた。少し後ろで、中学の頃からの友人が手を振っている。



「よぉ、おはよ。」

ふああ、と欠伸をしながら銀時が手をあげる。相変わらずやる気の無さそうな歩きかたで長谷川が近づいて来た。



「ったく、入学式ってのになんだそのやる気のねぇ歩き方は。」

「それ言ったら銀さんの方だって負けてないよね。」

「いや、あんたには負ける。」



あんたの方が、あんたの方が、と言いながら銀時と長谷川は学校へ上がる坂道を歩く。のんびり歩く二人を、同じ制服を着た高校生達が追い抜いた。

おそらく上級生らしい、慣れた風で歩く生徒の中に緊張の色を隠せない新入生が混ざっている。

昨日の入学式では顔合わせする暇もなく、同じ中学の奴等と話をするだけだった。自己紹介などは今日あるのだろうから、本当の意味で高校生活が始まるのは今日からだ。



「そういや銀さん、俺達のクラスに『ツクモ』がいるらしいよ。」

「なんだ?その『ツクモ』ってのは。あのアレか?何年か前に流行ったホラー映画の死神がそんな名前だった気が・・・」

「ああ、元ネタはそれなんだけどな。なんか他の中学が言ってたんだけど、吉中にそう呼ばれている女がいて、それが今度銀魂高校に来るらしいんだよ。」

「ふぅん。」

銀時は興味無さそうに通りを彩る桜の木を眺めていた。長谷川がニヤリ、と笑いながら話を続ける。



「なんかね。なんかその女がスゲー迫力らしくて、その女に近づくと死神にとり憑かれるって恐れられてるらしいんだとよ。他にも呪いかけられるとか、魔界を牛耳ってるとか、顔にある傷はどっかの悪霊と戦った時に出来たとか、なんかスゲー逸話があるみたいで。」

「どんな中学生だよ、それ。」

「昨日クラスの端の席にいたぜ。なんかこう、迫力のある女でさぁ・・銀さん気がつかなかった?しかしそんな奴が同じクラスなんて怖いよなぁ。俺も気をつけないと。」

「幽霊の正体みたり、で案外たいした事ねぇかもしれねぇぞ。」

「分からないよ!呪われたらどうすんの!呪われたら!」



怖がる長谷川を見て銀時が笑う。二人で道を歩いていると坂の頂上辺りに、一人の少女が立っていた。

その向こうには学校の校門がある。少女は、その入口にある、ひと際大きい桜を眺めていた。

何処かで見た顔だ。真新しい鞄と言い、昨日入学式で会った同級生かもしれない。



少女が、くるり、と向きを変えた。学校へ向かうらしい。

歩き出したその後ろ姿から、何かが落ちた。

たたた、と銀時は駆け足で坂道をあがる。道の上には桜色のハンカチが落ちていた。



「ちょっとそこのお前、待てよ。」

その言葉に、少女が振り向いた。

端正な顔。中々の美人。そして顔に大きな傷がある事に銀時は気がつく。



「これ、お前のじゃね?」

ハンカチを差し出すと、少女は駆け足でこちらへ向かった。あ、の形に口が開く。



「・・・わっちのであり・・・です。すまぬ。」

消え入るような声で、少女は礼を言い頭を下げた。銀時はニカッと笑う。



「そうか、よかった。」

「・・・どうも。」

「あ、お前もしかして1年A組?」

「・・・そうであり・・・はい。」

「なら俺と一緒だ。宜しくな!」



銀時がハンカチを渡しながら言うと、少女はビックリしたような顔でこちらを見つめた。

大きな瞳だな。そう思っていると、少女が思い切り頭を下げた。



「よ・・よろしく!ではまた!!!」



そう言うと少女はハンカチを奪い取り、駆け足で学校へと駆けて行った。



「・・・銀さん。」

声をかけられ、振り向くと長谷川が青ざめた顔で立っていた。



「どうした長谷川さん?腹でも下した?」

「銀さん・・・今の女・・・・・・・あの顔の傷・・・・・・・多分、あれが『ツクモ』だよ・・・どーしよう。銀さん呪われるって!絶対危ないって!!」

「・・え?」



銀時は校舎の方へ目をやった。既に少女の姿はない。



「別に・・・・・・フツーに可愛い女子じゃね?」







***





はあはあ、と息を切らせながら月詠は教室へと入った。

まだ教室には誰の姿もない。ホッとして自分の机に座る。



「・・・ちゃんと、話せたかのう・・・・」



先程の会話を想い出し、どう考えてもちゃんと礼を言っていなかった事に気がつき、自己嫌悪に陥る。



月詠が幼い頃住んでいた地域は話方が独特で、月詠もそれがすっかり身についていた。

だが、小学生の時に引っ越してから、それがかなり「普通でない」話し方だと気がついた。知らず知らず話をしていて、周りの子に笑われた事も何度もある。

なんとか普通の話し方にしようとしたが、癖になったものは中々抜けず、かえっておかしな言葉になってしまう。そしてますます笑われる。

それ以来、月詠は人前で話をするのが大の苦手になってしまった。

姉である日輪など、身内で話すのは問題ない。だが、クラスメイトなど他人と話をしようとすると、自分の話し方が気になって仕方ないのだ。



元来無口な事もあって、その結果、クラスメイトと用事以外で話す事はほとんど無くなった。おかげで友達とは長年縁が無い。

見た目が怖いせいか幸いいじめになどは合った事はないが、クラスの皆に避けられている感じがする



ふう、と息を吐く。いつまでもこのままではいられない。

今年こそは。ちゃんとやろう。



「・・・少しはしっかりせねば、な。」



その時、ガラリ、と扉が開いた。

そこから顔を出したのは、先程の男子だ。



「あ・・・。」

ちゃんと礼を言おうと月詠は立ち上がった。だが、うまく話が出来ない。



その時、男子がこちらを向いた。

今までは、月詠と目が合うと皆目を逸らしていた。だが、その男子は目を逸らす事なく、月詠に向かって、ニカッと笑いかけて来た。





「よ、おはよう!!!」

「・・・・・・おはよう。」





ドキン、と胸が弾んだような気がした。

まるで太陽みたいな笑顔だ、月詠は、そう思った。











***






◎おまけ・1





「・・・ってところまでが第一話なんだよ。明日発売の『別冊マーガ◎ット』に載る事になったんだ。」

「・・・」

「本当は出版社に出す前にアニキに相談するつもりだったんだけど、ずっとアニキ入院してたんだろ?なんか噂でスターウォー◎してたって聞いたけどやっぱりアニキはすごいなぁ〜。」

「・・・」

「しかしまさか俺少女マンガの才能あったなんてね。前からラブコメの方が性に合ってるなぁと思ってはいたけど、仮出所した途端に連載が決まるなんてラッキーだなぁ。」

「・・・」

「どうしたんだよアニキ、さっきから黙って・・・・・あ、もしかして俺がジャンプ以外の漫画雑誌に投稿したの怒ってる?でも実はジャンプの編集者の人の紹介なんだ。同じ集◎社の少女マンガ雑誌に描いてみないかって言われてね。」

「・・・」

「アニキ?」



紙の端から、ひょい、と鯱の顔がのぞいた。銀時は手にした原稿を握り締めながらその顔をにらみつける。



「おい・・・テメェ、この主人公の名前なんだよ。」

「あ、俺実際のモデルがいるほうがキャラがうまく描ける性質なんだ。で、アニキをモデルにしてみたんだよ、どうだい?イケメンだろ?」

「・・・それだけじゃねぇ・・・なんだこの女は。」

「ああ勿論、姐さんがモデルだよ。どうだい?結構似てるだろ?」

「待て・・・俺はテメェにあの女紹介した覚えはねぇぞ・・・。」

「ああこの前万事屋に訪ねて行ったら姐さんがいて・・・新八兄さんにアニキの彼女だって聞いたんでそれで・・・。」

「待てええええええええええええええええええええ!!黙って勝手に人のこと漫画にするんじゃねぇえええええええええ!!何だこのこっぱずかしい漫画は!!今すぐ止めろおおおおおおおおお!!!」

「ええ?無理だよ、もう明日発売だから全国の本屋に届いてるって。」

「こんなモン発売されたら俺ぁ明日からどんな顔して街歩きゃいいんだああああ!!」

「えーいいじゃねぇか、姐さんとの恋は俺がしっかり描くから☆」

「やめてぇええええええええええ!!!!」











☆という訳で、鯱先生作 『ぬしに届け』 第一話 終

 月詠と銀時の恋は始まったばかり!二人の今後に注目!!!

 次号、第二話『席替え』お楽しみに!!!(※予定はあくまで未定です)




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