長編1
□ぬしに届け
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【席替え】
『5月7日
入学して1ヶ月が経った。少しは学校にも慣れたけど、まだまだわからない事も多い。
友達はまだ出来ていないけれど、時々話をしてくれる人もいる。
坂田銀時君。
坂田君はとても同級生に人気がある。男子とも女子とも仲が良い。
誰が相手でも気さくで、明るく楽しい。
わっちも、ああ言う人間になれたらいいのに、と少し思う。』
***
「おい、ツクモの呪い聞いたか?」
GW明けの教室。銀時が扉を開けると、姿を認めた同級生達がわっと押し寄せて来た。
「呪い?」
鞄を机に置きながら銀時が答える。
「そうそう。」
微妙に加齢臭をまき散らしながら、長谷川が青ざめた顔で近寄って来る。お前は本当は何歳だ、と銀時は思った。
「ほら、GW前にさ、留学生のハタがツクモにノート拾ってもらってたろ?」
「・・・そんな事あったっけ?」
「あったんだよ。で、ハタスゲー怯えてたんだけどさ。そしたらGWに交通事故にあって骨折したらしいぜ。」
「・・・偶然だろ、単なる。」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!」
ぶんぶん、と長谷川は大きく首を振った。
「ハタはさ、この前『ツクモとか言う女は辛気臭いのう』とか言ってたんだよ。そしたら放課後ツクモがノート拾って渡して・・・そしたら怪我だろ?何もねぇ訳ねぇだろうが!!絶対!!」
「・・・バカらしい。」
その時、ガラリと扉が開いて月詠の姿が現れた。ざわりと教室の中がざわめく。
「・・・おはよう。」
誰ともなく、月詠が挨拶をした。教室の皆は怯えた顔をして答える様子が無い。
銀時は廻りを見渡して、眉をひそめた。ガタン、とわざと音を立て席を立つ。
「おっす。」
軽く手をあげると、月詠が軽く頭を下げた。そして窓際にある自分の席に着く。
「・・おい、銀さん。」
後ろで長谷川の声が聞こえたが、敢えて無視する事にした。
何か長谷川が言おうとした時、キーンコーンとチャイムが鳴った。数人の生徒が駆けこむように教室に入って来る。
「関係ねぇよ。」
銀時は呟くと、ガタガタと席につく生徒達と一緒に椅子に座った。
***
帰りのクラス会。
「あー、今日は席替えをしまーす!!」
この学校の体育教師であり、クラスの担任でもある近藤の声に、えーと生徒から抗議の声があがった。
ジャージ姿の近藤がバン、と黒板を叩く。教壇に何やら大きな箱を置くと、手にこぶしを握りキラキラと目を輝かせた。
「いいか!お前達も入学して一ヶ月。そろそろ友達も出来始めた頃だ!だがな!まだまだお互いのことを知っているとは言えぬ!だからここで席替えをして、新たな交友関係を築くがいい!!なぉ、坂田!!」
いきなり名指しされ銀時は顔を背けた。こら、照れるな!ハッハッハ、と近藤がさらに大きな声で笑う。
「何でもいいからさっさとやろうぜ。」
銀時が言うと、そうだな、とクラス委員が席を立った。近藤が置いた箱の中にはくじが入っており、それを順番に生徒達が引いていく。
「わー、あたし3番。一番端〜!」
「げ、俺一番前じゃねぇかよ。」
くじに書かれた番号を見て、生徒達がざわざわと騒ぎ出す。
「よし!じゃあこの番号通りに机並べ替えておけ!終わったやつから解散!!!」
じゃあな!と手を上げると近藤が教室から出て行った。銀時はやれやれ、とくじを開く。15番。不幸にも教室中央一番前。教壇の正面だ。
げげ、と自分の不運に唸る。
「げ!俺27番!?ツクモの隣かよ!!」
すぐ後ろで声があがり、銀時は声のほうへ顔を向けた。
一人の男子生徒が、くじを手に青い顔をしている。
「何だよお前、何ビビッてんだよ。」
「でもさぁ。ほら、あいつの呪いが・・・。」
他の生徒達が集まり、皆で教室の端へと視線を送る。その先には、窓際に机を運ぶ月詠の姿があった。
「ほら、行けよ。」
「えー変わってよ、誰か。」
変わってよ、嫌だよ、言いながら何人かの男子生徒がつつき合う。それを聞いて、他の女子生徒が「あたしも前嫌だ〜」「あたし後ろよ。」と言い出した。
その声は月詠に届いていないらしく、当の本人は黒板の並び図を見ながら机を並べている。
一瞬、胸の中にモヤモヤした感情が走る。銀時は手を伸ばすと、オロオロする男子生徒からくじを奪い取った。
「あ?」
「なら、俺変わってやるよ。ほら。」
銀時が自分のくじを渡す。それを見て、男子生徒が「げ、センコーのまん前かよ。」と唸った。
「どっちがいいんだよ。」
銀時が二つのくじを手に、ぎろり、とにらんだ。相手はううう、と唸って教壇前のくじを取る。
「よし、決まり。じゃ、お前とお前もよこせ。」
銀時は、月詠の周囲の席だと騒いでいる生徒から、次々とくじを奪った。そして、教室の端に座る友人へ目を向ける。
「おーい、妙、神楽。お前等窓際が良いって言ってたろ?この席変わってくれるってよ。二人並びだぜ。」
「え?本当ですか?」
「やったアル!!!」
銀時の声に、二人の少女が立ちあがった。中学からの友人の妙と神楽。
二人は黒板の並び図とくじの番号を見て、「これがいい!」とくじを手に取る。そしてそそくさと机を運び出すと、月詠の前に二人で並んだ。
「あ、よろしくお願いします。」
「よろしくナ!!!」
笑顔で挨拶する二人に、月詠が何かもごもご答えているのが見えた。よし、と銀時はもう一人、教室の端で寝ている男の肩を叩く。
机にうつぶせになっていた男が、顔を上げる。アイマスクをのろのろと取ると、沖田の寝ぼけた顔が現れた。
「おーい、沖田君。起きて下さい。」
「・・・・・・・・・なんですかい?」
「君に窓際一番後ろの特等席を用意したんだが、行く気ある?」
「あ・・・・・・・・・・・・はい。」
沖田の机に置いてあったくじを手に取り、代わりのくじを銀時が渡すと、沖田は寝ぼけ眼のまま、机を抱えた。
そのまま月詠の斜め後ろに机を置くと、椅子を運んで来てまたうつぶせになる。
「あ・・・・・・あの、よろしくお願い・・・。」
戸惑う様子の月詠を見て、銀時がにやり、と笑った。自分の机を抱え、よいしょ、と持ち上げる。
そのまま月詠の隣まで来ると、ゆっくりと机をおろした。こちらを見上げる月詠に、よ、と笑いかける。
「今日から隣。よろしくな。」
「あ・・・・・・はい。よろしくお願い・・・します。」
「私もよろしくお願いします。」
「よろしくアル!!」
「・・・・zzz。」
皆で挨拶をすると、月詠がわずかに微笑む。やっぱ結構可愛いじゃん、とその顔を見て銀時は思った。
続く(?)
***
◎おまけ・2
「おい、鯱。この話止めろって言っただろうが。言ったよな、俺。」
「ごめんよ、でもアニキ。この話アンケートで一番取ったんだぜ!!ほら見てよ、このファンレター!!それにね、神楽さんや新八さんからアニキと姐さんの色々エピソード聞いたりしたんで・・・俺なんか燃えて来ちゃってさぁ。もう何話か編集部に送っちゃったんだ!!」
「ちょっと待てやコラァ!!何を聞いて何を書いたんだ!?え!?」
「大ジョブ大ジョブ、ちゃんと脚色してるから☆」
「そういう問題じゃねぇだろ!第一名前からそのものずばりじゃねぇかよ!!!」
「そうだねアニキ、これで日本中の人気者だね!今度アニメ化もするらしいし!!」
「待てぇえええええええええ!!」
☆今大人気!!鯱先生の連載「ぬしに届け」次回もお楽しみに!!!
***
えーー、文章だけでは席がわからなかった方へ。
窓 妙 神楽
窓 月 銀
窓 (空席) 沖田
という並びです。
「お前の文章力が足りないだけネ!!」というご指摘は、私が一番理解しておるのでなしの方向で←
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