長編1

□冷たい月
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その日も、吉原の夜は暑かった。

以前までは地下の国だった為、冷暖房が完備され、一年中快適であった。

それが先日の事件で天が開き、太陽の光が降り注ぐようになった吉原では、
今度は逆に自然の厳しさが街に訪れるようになった。



「本当、私達、今までこんな暑さなんて体験して来なかったでしょう?だから吉原でも夏バテで寝込んでいる子も多いのよ。そんなの気合一つで吹き飛ばさないとね」

それまでの幽閉暮らしからは考えられない程パワフルな日輪は、夏バテも吹き飛ぶ明るい笑顔で言った。


「母ちゃん、本当、俺より元気なんだから。不思議だよな」

バイト先から休憩で戻っている晴太は、汗をかきながらアイスに食らいついている。

汗ダクダクになりながらアイスを食べる姿は、夏の厳しさを感じさせると同時に、吉原が「普通の街」になった事を表していた。



「全く、あんたは何処でも生きていけそうだよ。それは良いとして、あの生意気女はどうした?もしや夏バテで寝込んでるんじゃないだろうな。なら笑いに行ってやるが」

言葉とはうらはらに、暑さで相当バテている顔をしているのは銀時である。


相変わらず数日おきに吉原へ来ては、女を買うわけでもなく(買う金も無いが)
晴太と遊んだり、日輪の茶屋で団子を食べたりしている。


そして、そのついでと称して、月詠に会いに行き、口喧嘩している事は、この界隈では密かに有名であった。


月詠の名を聞くと、日輪は少し顔を曇らせた。


「銀さん・・私も丁度それで言いたい事があったのだけど・・・・」

「何だ?あの女がグレたとか?」

「茶化さないで。
あの子、最近様子がおかしいのよ。ちゃんと寝ていないようだし。
悩みでもあるのかと聞いても、はぐらかしてばかりだし。

確かに前から何でも抱え込む子ではあったけど、あんな事は今まで無かったの。

銀さん、ちょっと様子を見てくれない?」


「そんな事言っても、あの女が素直に話すとは思えないんだが・・・仕事が忙しすぎるとか?」


「そう思って百華の子に聞いてみたけど、最近は大きな事件は起きていないの。
小さな事件は、月詠がいなくても解決できるし。
それに、百華の子も、月詠の様子がおかしいと気付いてる。でも、何も話そうとしないらしいの。」


そう言うと、吉原の太陽は美しい顔を曇らせた。
自分を守り、吉原を守る月詠は、同時に彼女にとっては大切な妹のような存在である。


「分かった。俺で何かできるかわからねぇけど、顔だけ見てくるか」

そう言うと、銀時は椅子から立ち上がった。
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