長編2
□そして僕は 1
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その人は、名前を月詠さん、と言った。
どうやら月詠さんは行きたい所があるのだが、道をはっきりと覚えていないらしい。
ブラブラ歩いて探していたのだが、イマイチ見つからないので、思い切って僕に聞いたみたいだった。
「すまぬ・・・仕事中であったろうに。」
「いいんですよ。道案内も警察の仕事ですから。」
そう言いながら、僕は少し心が弾んでいた。
なぜなら、町を歩く男たちが「何でこんな美人とこんな男が一緒に歩いている」という顔で見ているから。
地味な僕としては、普段とは違う視線に、少しだけ優越感を感じてしまった。
少し歩くと、目当ての場所についた。
最近美味いと評判の、たい焼き屋だった。
「たい焼きお好きなんですか?」
「いや・・先日初めて食べて、気に入ってしまって・・な。」
少しだけ恥ずかしそうに月詠さんは言った。
へぇ、吉原ってたい焼き無いんだ、と思いつつ、月詠さんが少し照れる姿に、さっきまでのクールな雰囲気とは違うものを感じる。
ドキ。
あれ?何?今の。
そんな僕の??など気がつくわけも無く、月詠さんはたい焼きを二つ買うと、一つ僕に渡した。
「案内してくれた礼じゃ。嫌いでなければ召し上がってくれ。」
「え?いいですよ。そんな。」
「・・甘い物は苦手であったか?」
「いえ、そんな事は。」
思わずたい焼きを受け取り、かぶりつく。
そんな僕を見て、自分もたい焼きを食べた。
「やはり、美味いな。」
そう言って、少し笑う。
あ、笑うとこの人、凄く可愛い感じになるんだ。
もっと厳しい感じの人だと思ったのに、意外だな。
そう思った途端、また胸がドキドキした。
あれ?何これ???何々????
僕が内心焦っていると、月詠さんがじっと僕の顔を見つめた。
「ど、どうかしましたか?」
「ほら、ココ。」
そう言うと、月詠さんはハンカチを取り出すと僕の口元へ持ってきた。
そして、口元を優しくぬぐう。
ハンカチには、たい焼きの餡がついていた。
「ついておった。」
そしてまた、月詠さんは笑った。
今度は真正面で笑顔を見てしまった。
凄く綺麗で、可愛い笑顔。
「あ・・すいません。」
ドキドキドキドキ。
どうしよう、これ。
僕、心臓悪かったっけ?
血圧高かったっけ?
変だよ、コレ。変だよ。