長編2
□5(完)
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日輪さんは、ああ見えて実は吉原の実力者らしい。
月詠さんの記憶喪失と怪我の噂を聞きつけた暴漢達が、彼女と晴太君を拉致し、日輪さんを脅して権力を奪おうと画策した・・と僕は後から聞いた。
旦那は、この機会を狙う奴等がいる事を予想していたらしい。
月詠さんの所に顔を出さずとも、新八君や神楽さんを使って、ちょくちょく様子を探っていたようだ。
なんか・・やっぱり吉原に関しては、僕は部外者だったみたいだ。
正直、ガックリ来た。
けれど、月詠さんが元気になった事はそれはそれで嬉しい。
だから、彼女の退院の日に、僕は一応顔を出すことにした。
「色々世話になった。今度、礼をさせてくれ。」
「いえ、気にしないで下さい。」
月詠さんはすっかりもとに戻っていた。
クールで凛々しい、だけど実は可愛い女性に。
病室には旦那が迎えに来て、二人で吉原へ戻るみたいだ。
「ホラ、行くぞ。」
「ああ。」
軽く会釈して去ろうとした彼女に、僕は話しかける。
「月詠さん、今度バトミントン、一緒にしましょうね。」
月詠さんは振り向くと、
「そうだな。今度是非、教えて欲しいでありんす。」
そう、笑って言った。
そんな僕達を見て、旦那が苦虫を噛み潰したような顔をしている。
この位の反撃は、したって良いでしょ。
僕は密かに思った。
だって、旦那と一緒の時の月詠さんが一番綺麗に見えるのは、確かなんだから。
そして、僕は旦那の蹴りが来る前にサッサと退散した。
病室から出て、僕は屋上へ上がった。
月詠さんと旦那が病院から出て、歩いていく姿が見えた。
その姿は、以前見た2人の姿そのままで。
羨ましいと思いつつ、どこかで嬉しい気持ちもあった。
やっぱりあの姿が、彼女には一番お似合いだ。
懐から魚肉ソーセージを取り出して食べる。
何故かソーセージは、しょっぱい涙の味がした。
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僕の話はここまでです。
それからは・・別にいつもの通り。
旦那は相変わらずだし、月詠さんとはたまに会う程度。
ひとつだけ変わったことは、僕が月詠さんと話をしていると、必ず旦那に後ろから蹴りを入れられる。
バトミントンの約束も、なんだかんだと旦那に邪魔されて、実現されていない。
もしかしたら、僕も一応恋のライバルの一員として認められたのかもしれない。
でも、本当に、それだけ。
そうやって、僕の淡い想いが自然と消滅するのを待つだけ。
ゴメンね、地味な話で。
面白くなかったでしょ。
あれ?どうしたのかな?
もう諦めたはずなのに・・
やっぱり目頭が熱くなっちゃうよ。
おかしいね。
終
→次ページ、あとがきです。