長編2
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「月詠様。貴方の頼みと言えども、それは聞けません。」
「そこを何とか。茜はまだ子供じゃ。わっちが良く言い聞かせるゆえ。」
「掟は掟です。子供とは言え、見逃しては示しが付きません。」
銀時が中へ入ると。
百華らしき女と月詠が話をしていた。
「そこを頼む。」
月詠は頭を下げる。
「それは上の者が決める事です。私達は、掟に従って逃げようとした者を捕えただけです。」
「・・・」
月詠は頭をあげると、百華の女に言った。
「ならば、わっちが上と話をするでありんす。」
「月詠様。茜の借金も背負うおつもりですか。日輪太夫の時のように。」
「誰が払おうと、金は金じゃ。上は気にしておらぬ。わっちの言葉を上に伝えよ。茜が吉原から出るのが叶わぬのなら、せめて今回の件を不問にしてほしい、その埋め合わせが自分がする。」
「・・・貴方も人が良い事で。」
百華の女は、とりあえず伝えるだけ伝えましょう、と言うと部屋を出て行った。
それを見送ると、銀時は口を開いた。
「何があったんだ?」
「茜の母が具合が悪いと・・文が届いたらしい。それで・・・一人で地上にあがろうとしたらしいのじゃ。」
「あのガキ馬鹿か。一言、言えば良いのに。」
「わっちが悪いのじゃ。茜に相談されたのに諦めろ、と言ったせいじゃ。」
「お前が・・?」
「逃げる先が分かっておればすぐに捕まる。下手をすれば家族にも害が及ぶ。」
「・・・」
「それでも・・抜け出そうとしたのだ。」
ならせめて、命だけは助けないと。唇を噛みしめながら月詠は言った。
「いざとなりゃ、俺が茜を連れ戻して来てやる。」
「銀時?」
「ガキが母親に会いてぇっつーのはおかしい事じゃねぇ。それの何処が悪い。」
「ぬしは優しい男じゃな。」
月詠は笑った。
「しかし、心配は要らぬ。今の話で“上”はおそらく茜の命は取るまい。」
「さっきの・・借金の話か?」
「話は適当にごまかせるし、な。前の事もあるゆえ。」
「それは日輪の事か?」
「・・・」
答えが無い事が答えだった。