長編2

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「分からぬ・・だが、声がする方に行こうと思うと、とても怖くて、足が動かぬ。

哀しくて哀しくて、そのまま動けなくなる。

このまま・・此処にいなければ、と思う。」

自身の体を抱きながら、月詠が言う。

夢魔の影響だからだろうか。

あまりに辛い経験をしたからだろうか。

この女の、こんな弱音を、俺は初めて聞いた気がする。

銀時は思った。



だが、それでも目覚めなければいけない。

「お前を待ってる奴がいる。」

銀時は言った。

俯いていた月詠が顔をあげ、銀時を見た。



「お前には、お前が必死で護った仲間達がいるんだ。

日輪も晴太も、仲間達も・・・俺も。
お前を待ってる。

だから、帰るぞ。」

そう言って、月詠の体を抱きしめた。



月詠は一瞬体を強張らせたが、両腕を銀時の背に回し、すがるように抱きつく。

「辛ぇ事もあるかも知れねぇけどさ。それを支えてくれる仲間がいるんだよ。お前には。」

「銀時・・・」

はらはらと、月詠の瞳から涙がこぼれた。

良いんだ、夢の中くらい、思い切り泣け。

幾らでも、泣け。

そう思えば思うほど、胸の中に愛しさが込み上げる。

「銀時・・わっちは弱い人間じゃ。」

「?」

「銀時・・わっちは・・ぬしの事を好いておる。」

「月詠・・・」

月詠は潤んだ瞳で銀時を見つめた。

「正直に言うと・・此処でぬしとずっと一緒にいられたら、と思うのじゃ。

此処を離れて、ぬしと別れるのが嫌なのじゃ。」

「俺は・・離れねぇよ。」

「銀時・・」

「俺がついてる。お前を護ってやる。辛ぇ時も、泣きてぇ時も、俺が傍にいる。」

だから、そんな顔すんな。

月詠の瞳が、銀時をじっと見つめる。

その瞳に浮かんだ涙を月明かりが照らしていた。

何かを思うより先に銀時の体が動き、そのまま月詠に口づけ、更に力強く抱きしめた。

月詠もそれに答えるように腕に力を込め、お互いに貪るように口づけた。
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