銀月(前)
□決戦は日曜日(前編)
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「ちょっと、あの子やるじゃない♪」
「当たり前でしょ、店長。この私が連れて来たんだから。」
ホホホ、と猿飛が高笑いした。
一見ウエイトレスなどできそうに見えない月詠ではあったが、もともと吉原で教育を受けた人間。
身のこなしや礼儀作法は上品であるし、頭の回転も速いので仕事の飲み込みも早い。
しかも、酔っ払いの戯言を日頃さばいている為、客の多少のセクハラ言動も華麗にさばいていく。
無愛想ではあるが、もともと此処はカッコ可愛いくの一マニアが来る店。
クールな月詠は、またたく間に客の熱い視線を集める事となった。
しかし、いつもより少ない人数で、いつもより多い客を迎えた為、店は大忙し。
あっと言う間に、閉店時間となった。
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「ありがとう、二人とも!おかげで助かったわ。日曜まで乗り切れたらお給料弾むから、あと二日、お願いね!!」
大感激の店長を振りほどき、二人で店を出た。
外は既に暗く、ぼんやりと月が出ている。
「それではな。」
「あ、ちょっと待って。」
さて、吉原に帰るか、歩き出そうとする月詠を、猿飛が引きとめた。
近くの自動販売機に行くと、コインを中に入れる。
しかし故障しているのか、ボタンを押しても何も出て来ない。
「何よ、これ。何?自販機まで私をバカにしてるの?ちょっとこれSなの??S??」
一人叫びながら自販機を蹴り飛ばす。
「おい、止めなんし・・」
月詠が声をかけようとしたら、ガタン、と音がした。
「何よ、やれば出てくるんじゃない。」
息を弾ませながら、猿飛が自販機の出口に手をやった。
そして缶コーヒーを取り出し、月詠に投げる。
「サンキュ。助かったわ。これは御礼よ。」
「・・・すまぬ。」
「何?すまぬって。嫌いなの?コーヒー。それとも私のオゴリじゃ不満なの??」
「い・・いや、そういう訳では・・礼を言いたかっただけで・・」
月詠が焦って手を振ると、猿飛はふーっと息を吐いた。
「何よ、御礼ならちゃんと言いなさいよ。」
「だから、すまぬ・・と。」
「すまぬ、じゃないでしょ。ありがとう、でしょ。」
ピッと指を月詠の前に突き出す。
「・・・ありがとう。」
「フン、全くやってられないわ。」
言うなり、猿飛は高くジャンプし、近くの屋根に飛び乗った。
「じゃ、私はこれから銀さんの所へ行くから、また明日ね!!」
「銀時の・・所?」
「銀さんの事だから、今頃なじみの居酒屋で飲んでる頃だわ。私はそれを見守りに行くの!」
「見守りに、って一緒に飲むのでは・・なく?」
「当たり前でしょ。何言ってるの?まあ、銀さんが『お前をサカナに飲みたい』って言ってくれたら何時でもつまんでもらう覚悟はできてるんだけどね。」
ポッと頬を赤らめると、じゃあね、また明日。と言って猿飛は去って行った。
「猿飛は・・やはり銀時の事が、好きなのじゃな。」
月詠は手に持った缶コーヒーをじっと見つめて呟いた。