銀月(前)
□その存在の重さを、それを失って初めて知るという事
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「その人の人生は、その人が死んだ時、どれだけの人間が泣いてくれるかで決まる」って書いてたのは、何の漫画だったか。
その言葉が真実だとしたら、この女の人生は、満ち足りたものなのかもしれない。
物言わず横たわる女を取り囲むように、多くの女達が泣いていた。
人の命とは呆気ないもので。
夜王との戦いにも生き残った吉原最強の女は、ある日あっさりとその命を落とした。
チンケなこそ泥を捕まえようとして。
完全に戦意を失ったチンピラに背を向けた途端、隠し持っていた銃に撃たれた。
戦場にいた俺にはわかる。
腕のたつ奴に限って、つまらない奴にやられるんだ。
そのチンピラはこの女を撃った後、あまりの恐怖に失禁したらしい。
その情けなさに、百華の女達も呆れかえって憎む事すら忘れそうだと言っている。
どんな死に方であれ。
「護る護らない」など言う暇もなく、あっけない最期を、この女は迎えた。
けれど死は死で。
一緒に通夜に来た新八と神楽は、顔をくしゃくしゃにして泣いている。
涙一つこぼさない、俺の代わりに。
通夜が終わると人気が消え、気がついたら部屋には俺と日輪、そして物言わぬ体が一つ。
「ねぇ、銀さん。」
さすがの太陽も、今日はその光を翳らせ、哀しげに言った。
「この子、実は貴方の事、好きだったのよ。」
「・・・日輪さん、今、此処でそれ言うかねぇ。あんたSだろ、絶対。」
あいつの気持ちだけじゃない。
俺の気持ちも、アンタは知ってるんだろ。
吉原の光は、今まで見た事のない憂いを帯びた笑みを浮かべた。
絶えず隣に立ち、自分を護ってきた守護神を、哀しげに見つめる。
「そうね。私は月詠さえ良ければ、貴方の気持ちなんてどうでも良いから。」
表情を変えずに言い放つ日輪に、俺はいっそ潔さを感じた。
コイツは俺に惚れてた。
コイツがそれについて何も言う事はなかったが、それでも分かる。
何故かって。
俺もコイツに惚れてたから。