その他

□それは屋上で
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それは冬休みも目前のある日の事。



昼休み。屋上で沖田が一人パンをかじっていると、ドアが開く音がした。

振り向いて相手を確認すると、チッと舌打ちをする。同時に相手もチッと舌打ちをするのが聞こえた。

「お前、何で此処にいるアルか。」

「俺が先に来てたんだよ。嫌なら戻りやがれ。」

「いやアル。私、此処からの景色がお気に入りネ。」



俺と一緒かよ。その言葉を飲み込むと、神楽は沖田の事など無視して隣に座りこんだ。

屋上の、この場所からは町が一望できる。

密かにこの景色を気に入っていた沖田は、天敵とも言える相手もそれに気づいていた事に、わずかながら悔しさを感じた。



太陽の光は暖かいが風はもう冷たい。

ひゅーとふきつける風邪に、くしゅんと神楽が小さくくしゃみをした。

ゴロンと沖田が寝転がる。コンクリートの硬さと冷たさを背中で感じた。



「なあ、チャイナ。」

「何アルか?」

「お前、高校卒業したら、あっちに帰るのか。」

「当たり前ネ。パピーとの約束アル。大学になったら国に帰るって。」



ポケットから酢昆布を取り出すと、神楽はそれを口にくわえた。

もぐもぐと咀嚼しながら、遠くを見つめる。



「・・・コッチ来る時の約束ネ。約束を破るのは私嫌いアル。」

「・・・そうかい。」



寝ころんだ沖田の目前には青空が広がる。

高く見えるそれは、夏の青空とは違う。どこか寒い冬の空。



「何アルか?お前、寂しいアルか?」

「違ぇよ。」

「嘘つくナ。寂しいなら寂しいって言うアル。」

人の顔をのぞき込んで、チャイナが意地悪そうに笑う。



寂しくねぇ、寂しいアル、と2人で叫びあった。



いい加減、面倒になった俺は、つい、こう口にしてしまった。



「寂しいっつったら、チャイナ、お前どうする気だ?」

「へ?」

目の前で、チャイナの目がまん丸になった。

その頭に手を伸ばすと、そのまま掴んで引き寄せて、唇を合わせてみた。



やっぱコイツ、酢昆布の匂いがする。



そう思ったのもつかの間、腹に思い切り衝撃が走った。

「ウゲッ!!!」

思い切り殴りやがった。起き上ると腹を押さえて呻く。





「・・・バカ野郎!!!!!!!」





いつの間にか1mあまり向こうまで逃げていたチャイナが、涙目のまま叫んだ。

口からペッと唾を吐く。口の中が酸っぱい匂いでいっぱいになった。

くそ、あれは唾じゃなくて胃液かよ。



「お前が余計な事言うからだ。」

「うるさい!!!お前が最後まで聞かないのが悪いネ!!!」



チャイナがくるりと後ろを向く。

「とりあえずあっちの大学行って、コッチの大学に留学生として来る予定アル!!大バカ野郎!!!」

そしてそのまま走り去って行った。



「・・・・」

バタン、と扉が閉まる。



一人残された俺は、自分の阿呆さ加減に、呆れそうになった。

あんな事してどうすんだ、俺は。まだあと数カ月はアイツと顔合わせなきゃならねぇのに。



「 チャイナがさっさと言わねぇのが、悪ぃんだぜ。」

呟くと、また胃液が上昇する感じがした。



参ったな。



でも何故だろう。



笑えて笑えて、仕方が無い。







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