銀月(後)2
□計画は倒れてナンボ
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*10月1日*
俺はタウン情報誌を手に、「はぁ」とため息を一つついた。
「どうしたアル?銀ちゃん。」
隣で神楽が不思議そうな顔をする。
「新しいケーキ屋が3丁目に出来たんだってさ。このスペシャルイチゴケーキ、美味そうだな。」
「そうですね、銀さん好きそうだ。」
新八も顔を伸ばして写真を見る。
そう、お前等、このケーキの値段を良く見ろ。
少しお高いが、お前等が少しやりくりすれば買えない値段じゃねぇ。
俺は計算に計算を重ね、こいつ等が買える範囲で最も高級な、最も美味そうなケーキをチョイスしたんだ。
どうだ、この俺の完璧な計算は。
だからお前等、よくこの記事を覚えておけ。
此処までは俺の計画通り。
「買いに行くアルか?」
神楽の問いに、俺は心の中でガッツポーズを取りつつ、哀しげな表情をした。
「いや・・・良いよ。最近無駄遣いし過ぎたからな。オメー等の給料払えなくなっちまう。」
俺は『本当はこのケーキマジ食いたいけど、お前達の為に我慢してるんだぜ』という気持ちがほんの少しだけ垣間見える程度に、寂しく笑った。
「・・銀さん。」
「・・銀ちゃん。」
俺はタウン情報誌をさりげなく机に残すと、二人を残して部屋を出た。
これで仕込みは完璧だ。後は当日を待てば良い。
*10月10日*
「銀さん(銀ちゃん)誕生日おめでとう!!」
新八と神楽が、俺の前に箱を差し出した。
この形、大きさ、まさにケーキ箱。
俺は計画の成功を確信した。
そう、あのスペシャルイチゴケーキは、俺のものだ。
俺はニヤケそうな顔を必死に押さえ「お前等・・」とさも感動したフリをして箱を開けた。
「・・・え?」
目の前には、黒い謎の物体。
「私達、銀ちゃんの好みのケーキ作ろうって、あの写真見て作ったアル。」
「ケーキって作ると結構材料費かかるんですね。おかげでお小遣いすっからかんです。」
「・・君たち、何でケーキ作って、黒い物体が出来たのかな?」
俺は震える手でケーキ(と呼ばれる)物体に手を伸ばした。しかし何故だろう。手がそれに触れる事を拒否する。
「それが・・・僕達が作ってたら姉上が・・・」
「『私も手伝ってあげます』って姉御が手伝ってくれたアル。」
「・・・・」
「あ、ちゃんと全部食べてねって姉御言ってたアルよ。」
「残すなんて勿体ない事・・・許さん・・だそうです・・」
「・・・・うぉまえらぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺の計画は破綻した。
そう、馬鹿に回りくどい事をするのが間違いだった・・そう俺は思い知った。