記念物&企画物

□胃薬は恋の味
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「珍しいですね、近藤さんが食欲無いなんて。」

「え??」

言われて焦る近藤を見て、あら図星だったわね、妙は思った。


*******


キャバクラ「すまいる」には、今夜もいつものように近藤が来店していた。

ただ、いつもと違い、どうやら今日は接待らしい。上司である松平片栗虎、そしてどうやら幕府の役人らしい男性が一緒であった。




「ほら、近藤、お前も食え。今日はオジサンのおごりだから。しっかり食えよ。」

「はい、とっつあん、美味しいですねぇ!これ!!」

松平達に進められるままに酒を飲み、食事を口にする近藤を見て、ふと妙は違和感を感じた。

近藤は、いつも妙が勝手に注文する物を、全て美味しそうに飲み食いしていく。

今日も次から次へと飲み食いはしているのだが、何となく雰囲気が違う。

接待だから遠慮しているのかしら、と始めは思ったが、近藤が首の後ろに脂汗をかいているのを見て、ふぅん、と思った。




そこで、松平と役人が厠に立った隙に、聞いたのである。

本当は食欲がないのではないか、と。



「はぁ・・・実は、昨日から少し、腹の調子が・・・」

近藤は首の後ろをかきながら、小声で言った。

「食欲がないなら、ムリに食べなきゃ良いじゃないですか。」

「しかし、今日のお役人は真選組にとって大事な方で・・・それなのに進められた食事を断るなんて、できませんから。」

「・・・土方さんは、どうされたんですか?」

「トシですか?先週から出張ですが。」

成程。

日頃であればゴリラの体調管理までバッチリ行うフォロ方フォロ四郎が、今日はいない訳で。

だから、このゴリラが珍しく、無い知恵絞ってムリしている訳ね。




「だ・・大丈夫ですよ、心配しないでください、お妙さん。」

呆れ顔の妙を見て、近藤が慌てて言う。

「別に心配はしてないんですが。」

「そ・・そうですか。ハイ。」

言いながら、近藤は顔にも脂汗をかきだした。

仕方ない、ゴリラを止めないと、面倒な事になりそうね。

妙は、ニッコリと近藤に笑いかけた。

「大人しくしやがれ、ゴリラ。」





「オウ、次はマツタケの天ぷらでも頼んで・・・って、あれ?」

「うぉりゃぁぁぁぁぁ!!!」

そう言って松平達が戻ってきたのと、妙の右の拳が近藤の腹にめり込んだのは、同時だった。

「ぐぉぉぉぉぉ!!!!」

「お・・・お妙ちゃん!!??」

腹を押さえてうめく近藤と、呆気にとられるキャバ嬢達。




妙は右手をひらひらさせながら、笑顔で答えた。

「すいませーーん、近藤さん、ちょっとお痛が過ぎたもので。あら、近藤さん、泡ふいてますよーー?お休みされたらどうですかー?」

そのまま笑顔で近藤を引きずっていく。

「あ・・相変わらず、手厳しいねぇ。お妙ちゃんは。」

冷や汗をかきながら、松平はそれを見送った。




店の裏の事務所まで近藤を引きずると、妙は机をガサゴソと調べ始めた。

そして何やら瓶を取り出すと、ハイ、と近藤に渡す。

「お妙さん?」

「胃薬です。これでも飲んで、休んでて下さい。」

「あ・・・あの。」

「松平様が帰られる頃には、起こしてあげますから、そこで休んだら良いですよ。」

薬の瓶を抱え、近藤がじっと妙を見つめると、ガバっと立ち上がり妙の手をしっかりと握って来た。

「お妙さん・・・俺の為に・・・!!!」

「自惚れるなーー!」

手を振り払うと、妙は近藤を思い切り殴り倒した。



パンパンと手を叩くと、グッタリとソファに倒れ込んだ近藤を見る。

「言っておきますけどね。こんな事したのは貴方が食べすぎて嘔吐でもした日には、後片付けが大変だからですよ。」

ふん、と鼻を鳴らすと、妙は事務所を出て行く。

後ろからありがとうございます。という近藤の声が聞こえた。




先程握られた手の感触を思い出す。

ドアを閉める時、ほんの少しだけ、頬が熱くなったのは、内緒の話だ。






→次、オマケ


◎近:妙の愛情比率は、99:1。
でもこの”1”が好きなんです。
ビバ、凶暴な純愛(^^)
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