記念物&企画物
□赤い雲と遠い空
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秋の夕暮れ時と言うのは、それだけで物哀しい気分になる。
それは頬をくすぐる風が冷たいからだろうか。それとも空の赤が、先程まで見て来た血の色に似ているからだろうか。
草むらに寝ころび、銀時は考えた。
答えは出る事も無く、秋だからな、その結論づける事にした。
誰かの足音がする。
そのまま空を見上げていたら、目の前に辰馬の顔が現れた。
赤い空をバックに相変わらずの馬鹿面で笑う辰馬は、風流も減ったくれも無い。
「秋に失礼だ」
その言葉に、辰馬は何の事じゃ?と笑うと銀時の隣に座り込んだ。
「与力の奴、隊を出るんじゃそうじゃ。」
辰馬の言葉に、銀時は「そうか、仕方ねぇな。」とだけ答えた。
風が吹き、草を揺らす。
秋の風は、それだけで物哀しい。
攘夷戦争末期。
戦況は天人達の圧倒的優勢が続いており、銀時達の部隊は日に日に犠牲者が増えるばかりであった。そんな中の事。隊を抜けていくものは毎日のようにいる。
もともと戦などは人に強制されてするものではない。抜けたい奴は抜け、残りたい奴は残る。そう言って銀時達は敢えて止める事はしなかった。
「なじみの娘に、子が出来たそうじゃ。父無し子じゃ哀れだからの。あいつも相当悩んだらしい。」
草むらに寝転がってじっと空を見る銀時の隣に、辰馬も寝転ぶ。
おお、綺麗な夕焼け空じゃ、辰馬がやけに嬉しそうに言った。
「・・・あいつ、いつの間に女なんか作りやがった。」
「さあのう、じゃが、こんな時だからこそ、カワイ子ちゃんは大事にせねばの。」
テメェはいつでも女優先だろうが、銀時は思う。
だが、この馬鹿にそれを言っても、のれんに腕押しだ。銀時は、それ以上余計な事は話さない事にした。
「のう、金時、子が産まれるちゅうのは、良い事じゃのう。」
「何だ?いきなり。つーか俺は銀時だ。いい加減名前覚えろ。」
「いやのう、ワシは思うんじゃ。ワシ等の戦いは、いつまで続くか分からん。今みたいな形じゃなくても、争いは続いていくかもしれん。
じゃが、ワシ等もいつかは年寄りになって死ぬんじゃ。なら、次の世代を作るっちゅうのも、大事な事なのかもしれんぞ。」
「こんな時代に俺みたいなんがガキ作っても、ロクな事にはならねぇだろ。そんなの、他の奴に任せる。」
何故か怒ったように、銀時が言った。
その顔を見て、辰馬が笑う。
桂ほど詳しくは無いが、銀時に身寄りがない事、戦場で松陽先生に拾われた事くらいはそれと無く聞いている。
そのせいだろうか。この男は、人には優しいくせに自分の将来や家族の事に触れると、酷く嫌がった。