記念物&企画物
□SAKURA〜恋の終わり〜
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それは桜の蕾が膨らみかけた、早春の事。
通りを歩いていた銀時は、後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこには高校の制服を着た月詠の姿。どうやら学校の帰りらしい。
久しぶりに会った幼馴染に、月詠はいつもと変わらぬ無愛想な顔で挨拶をして来た。
銀時もいつもと同じように「ああ」とも「おう」ともつかない、やる気の無い返事をする。
「帰りか。」
「そうじゃ。ぬしもか。」
家は近所である。自然二人は連れ立って歩いた。
しばらくすると、坂道についた。
此処は春になると桜が咲き美しい光景になると有名な所だ。今はまだ蕾の段階だが、もう少しすれば此処は美しい桜坂となる。
ふ、と月詠がその足を止めた。何事かと銀時が振り向くと、月詠がじっとこちらを見つめていた。
「銀時。」
「何だ?」
「もうすぐわっちは卒業じゃ。」
「そうだな。」
月詠は高校を卒業すると、隣県の名門大学へ進学することが決まっていた。家を出て寮に住むらしい。
高校を卒業するや否や、万事屋などと言う怪しげな商売を始めた銀時とは大違いだった。
「銀時。」
月詠が坂の頂上を指差す。
「どちらが坂を先に上るか、勝負せぬか?」
「やだよ。この坂結構キツいの、お前知ってるだろうが。」
「子供の頃はよくしておったろう。あの頃はぬしに勝てなかったのでな。一度くらい勝っておきたい。」
「オメーが俺に勝てるわけねぇだろうが。」
「何を言う。高校を出た後はたるんだ生活をしておるらしいではないか。今のわっちに勝てるわけなかろう。」
ふふん、と笑う月詠にカチンと来た。よし、なら勝負だと銀時が腕まくりをする。
「待て、その前に何を賭けるか決めよう。」
「わっちが負けたら、駅前のケーキ20個奢る。」
「よし、じゃ、お前が勝ったらどうする?」
「・・・ぬしに、言いたい事がある。それを聞いてくれ。」
銀時が答える前に、月詠は「スタート」と叫び、坂を駆け上がる。「こら!」と叫ぶと銀時もその後を追った。
長い坂道を駆け上がる。
坂道をもろともせず、月詠の足は坂道を駆け上がって行く。
部活で鍛えた月詠の足は、校内でも女子としてはトップクラスだ。怠けきってる銀時には負けない。
息を弾ませ、月詠が走る。後ろに銀時の息づかいが聞こえるがまだ隣に来る気配は無い。
頂上が近づいて来た。破裂しそうな心臓の鼓動に耐えながら、勝てる・・と月詠は思った。
その時。
ぶわり、と制服のスカートが浮かぶ感触がした。下半身が外気に晒され、急に冷たさを感じる。
「・・・!!!」
スカートをめくられたのだ、と一瞬の後、気づいた。慌てて足を止め、スカートを抑える。
「見たぜ、白!!」
「・・・貴様!!!」
叫びながら、銀時が隣をすり抜け、我に返った月詠がその後を追う。
だが、一度止まってしまった彼女は銀時に追いつけず、坂の上で勝ち誇った顔で立つ銀時に遅れて頂上へと着いた。
「俺の勝ちだな。」
腰に手を当て勝ち誇る銀時の所へ駆け寄ると、卑怯者、と月詠が叫んだ。
「知るか、勝負は非情なんだよ。」
銀時が高らかに笑う。その顔を見て、月詠が急に表情を変えた。
いつもの真面目でクールなそれとは違う、不安げな、寂しげな顔。
「何故、ぬしは・・・」
言いかけて、月詠は再び歩き出した。
「ケーキを買いに行くぞ。」
「・・・おう。」
すたすた歩き出した月詠の後を、銀時がついて行く。
そして無言のまま、二人は坂を離れた。