記念物&企画物

□愛を止めないで
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僕が月詠さんに会ったのは、クリスマスが終わり、街が正月に装いを変わったばかりの12月27日。

とある団子屋の店先に、月詠さんは座っていた。

「久しぶりじゃな、山崎殿。」

「こんにちわ、月詠さん。」

久々に見る月詠さんは相変わらず美しく、僕はやっぱりドキドキしてしまう。

「今日は・・お休みですか。」

「ああ、昨日までは吉原も忙しくてな。山崎殿も急がしかろう。」

確かに年末になると犯罪が増える為、僕も忙しかった。

しかし、そんな僕を心配してくれるなんて・・感激してしまう。



「今日はどうして此処に?」

「ああ・・・銀時と待ち合わせしてて、な。」

ガックリ。分かってはいたけど、やっぱりか。

少しだけ照れる月詠さんの顔は可愛いけど、僕としては虚しい限りである。



すると・・彼女の着物の袖口から、チラリと見えたのは・・真新しい傷跡。



「あ、月詠さん・・」

僕の視線に気付いて、月詠さんが苦笑いする。

「昨日、な。ちょっと揉め事があって・・」

大した怪我では無いから、消毒だけして忘れておった、と月詠さんは事も無げに言った。

「そ・・そんな事無いですよ!」

思わず僕が大きな声を出したので、月詠さんは目をぱちくりさせた。

「女の子の体に傷なんて・・」

「この程度、大した事無い。」

彼女の表情は、本当に大した事無い、と語っていた。

しかし、傷ついてまで吉原を守ってるなんて・・この人は・・・!!

胸に何かがこみ上げて、僕は思わず月詠さんの手を取った。

「山崎殿??」

「つ・・月詠さん!」

僕が貴方を守ります・・・!!

そう、僕は言おうとした。

しかし、言えなかった。

なぜなら・・・







「どぅーあーれーが勝手に月詠の手握ってんだ?クォラ!!」

後ろから思い切り旦那の蹴りが入ったからだ。

「銀時?」

「旦那!」

後ろを振り向くと、旦那が僕を睨みつけている。

殺される・・と僕は思ったが、意外にも旦那は僕を無視して月詠さんに向かう。

そして、月詠さんの手を取ると、これどうした?と尋ねた。

月詠さんが事情を話すと、そうか、無理すんじゃねぇぞと言って・・・それから旦那は僕の方をチラリと見た。



そして・・・



月詠さんの袖をまくりあげると、傷口をあらわにし、ぺろりと舌で舐めあげた。

「・・・!!!」

「・・・!!??」

真赤になる月詠さんと、唖然とした僕の顔を見て、旦那は


「ちゃんと消毒しねーとバイキン入るぞ」


そう言って、僕の方をジロリと睨んだ。





呆然としている僕を尻目に、旦那は月詠の手を引く。

慌てて僕に「では、失礼」と言うと、月詠さんは立ち上がった。

小さな声で旦那に「何するんじゃ」と文句を言っているが、旦那は気にせず笑っている。

そして(絶対わざとだ)わざわざ月詠さんの耳元で何かを囁いた。

更に真赤になった月詠さんの肩を抱くと、旦那はふふんと鼻で笑い、「じゃあな」と僕に言って、去っていった。





・・・なんだありゃ。


旦那、ライバル心、むき出しじゃないか。


完膚なきまでに叩きのめされた僕は、呆然と立ち尽くすしか無かった。



そして、空を仰ぐ。



真っ青だった空は、薄く曇り空になって来た。まるで僕の心のように。

思わず、僕は空に向かって叫んだ。






「ちっくしょーーーーーー!!!!」





空は僕の叫びを吸い込んで、静かに雪を降らせた。





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