3Z&パラレル

□渇き
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頭、頭と呼ぶ声に、月詠ははっと我に返った。

振り向くと、不審そうな顔をした部下が立っている。

どうやら物思いにふける余り、周りの声が聞こえていなかったらしい。


「どうかしたのか?」


冷静を装って応えると、部下は見回りの報告をして来た。

今日も大きな事件はなかったらしい。

そうか、と応えると部下は部屋を出て行った。



しん、と静まり返った部屋の中。

月詠は握っていた手をそっと開いた。

手のひらに出来た小さな傷。

それ自体の痛みはたいしたものではない。だが、その傷が出来た時の事・・・あの時の事を思い出すと月詠の胸はちくちくと痛む気がした。



あの日・・・高杉の所から銀時に連れ出され、街の外れで銀時に抱きしめられた。

「泣けばいい。」といわれ、知らず知らず涙がこぼれた。



その腕の中に包まれ、ほっと落ち着く心と、ドキドキという胸の高まり。

相反する感情に月詠が戸惑っている間に、その唇が・・・銀時のそれに塞がれた。



目が回るかと思った。

体中がドキドキして、熱くなって、銀時の腕の力が強すぎて体がきつい事も、唇を深く吸われすぎて呼吸がつらい事も、全て忘れそうな位だった。



幼少の頃から師の元で修行をして来た月詠には、恋愛経験が無い。

実際、そんなものなどしたいと思う事も無かった。

男にも、恋や愛よりも、もっと大事なものがあった。



なのに・・それらの事も忘れるくらい、頭が空っぽになってしまった。



腰や尻の辺りを撫でられる感触がした。

手を振り払わねばならないと思いつつも、それを払う事が出来ず、逆にもっと銀時にしがみつきたい衝動にかられた。



ガタン、と音がして背に硬いものが当たる感触がしたのはその時。

銀時に迫られ、いつの間にか後ずさりしていたらしい。

近くの家に立てかけてあった板に、背が当たった。





「離せ!!」


その瞬間、月詠は思い切り銀時を突き飛ばした。

驚いた顔をする銀時の姿が一瞬ちらりと見えたが、すぐに目をそらす。


「あ・・・悪ぃ。」

「遊びなら・・・他の女にしなんし。」

「そういう訳じゃ・・。」

「・・・今晩の事は・・・内密に、してくれ。」


銀時が腕を伸ばして来た。顔の方へ伸びてきたそれを、思い切り振り払う。

カタン、と何かが落ちる音がしたが、それに構わず月詠は走り出した。

自分の名を呼ぶ銀時の声がまとわり付いてくるような気がした。
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